温暖化対策として注目のブルーカーボンとは?企業や自治体の取り組み事例もご紹介

ライフスタイル
2024年11月8日

近年の猛暑や異常気象などにより、ますます懸念されている地球温暖化。その温暖化を食い止める新たな一手として、今「ブルーカーボン」に注目が集まっています。ブルーカーボンの特徴やCO₂吸収の仕組み、国内での取り組み事例などを知って、温暖化対策について考えていきましょう。

目次

ブルーカーボンとは、藻場や干潟などの海洋生態系に取り込まれた炭素のことです。

「藻場」とは、太陽の光が届く浅い海域において、大型の藻類や海草が茂みのように群生する場所のことを指します。別名「海の森」とも呼ばれます。

水面下に形成されるためあまり目にする機会はないかもしれませんが、実は海の中ではさまざまな海洋植物が生い茂り、まさに森のような豊かな藻場をつくり出しているのです。

2009年にUNEPにより提唱

陸上において森林や草などの植物が光合成によってCO₂を吸収することは広く知られていますが、実は海域においても、藻場を形成する海草や海藻、植物プランクトンなどが、海に溶けたCO₂を光合成によって吸収しています。

2009年10月に国連環境計画(UNEP)の報告書「Blue carbon」において、こうした海洋生態系によって吸収・貯留された炭素が「ブルーカーボン」と名付けられ、新たなCO₂吸収源の選択肢として提示されました

人間活動によって排出されるCO₂量は年間約96億トンにものぼりますが、そのうち約19億トンは陸上の森林などで吸収され、約29億トンは海域全体で吸収されていることが近年の研究で分かってきました。

また、海で吸収されるCO₂のうち、約10.7億トンは海洋生物が光合成可能な浅い海域において吸収されています。

世界的に注目されるブルーカーボン

2023年9月にニューヨークで実施された「持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネル」で発表された「The Ocean as a Solution to Climate Change: Updated Opportunities for Action(気候変動の解決策としての海洋:行動のための機会 アップデート版)」でも、ブルーカーボンの有用性について言及しています。

この報告書では、ブルーカーボン生態系の保全・再生を含む海洋を基盤とする気候変動対策によって、2050年までに気温上昇を1.5℃以内に抑えるために必要な温室効果ガス排出削減量の最大35%を達成できる可能性があることが示されています。

ブルーカーボン生態系は、森林などと比べてCO₂吸収力が高く、しかも炭素の貯留期間が長いというメリットもあることから、温暖化対策としてのブルーカーボンのポテンシャルに注目と期待が集まっています。

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ブルーカーボンを吸収・貯留する海洋生態系のことを「ブルーカーボン生態系」と言います。

ブルーカーボン生態系には、次の4種類があります。

  • 海草藻場
  • 海藻藻場
  • 湿地・干潟
  • マングローブ林

海草藻場

海草(うみくさ)藻場とは、アマモやスガモなどといった、海中で花を咲かせ種子によって繁殖する海産種子植物が群生する藻場のことです。

波の穏やかな内海や内湾域の砂泥域など、比較的浅い海域に分布しています。

四方を海に囲まれた日本では、北海道から沖縄まで全国各地の沿岸に海草藻場が形成されています。

海草藻場では、光合成でCO₂を吸収するとともに、海底に張り巡らせた地下茎が泥質を安定させることで有機物が堆積。海草藻場の海底は巨大な炭素貯蔵庫にもなっています

海藻藻場

海藻(うみも)藻場とは、アラメやカジメなどの胞子によって繁殖する海藻で構成される藻場のこと。岩礁に着生して繁茂する他、防波堤などの海岸構造物などにも着生します。

食卓でなじみのあるワカメやコンブ、アオサなども代表的な海藻です。

海藻藻場は、日本でもっともCO₂を吸収しているブルーカーボン生態系であり、ブルーカーボン生態系全体における年間吸収量の約半分を占めています。

海藻はちぎれると海面を漂う「流れ藻」となって沖合まで漂流し、やがて寿命を迎えると海底に沈み堆積します。こうした深海に堆積した海藻由来の炭素も、ブルーカーボンのひとつです。

湿地・干潟

干潟とは、川が海に流れ込む河口部や、波の穏やかな湾内の海岸などに形成される砂泥地のこと。潮の満ち引きに合わせて水没と干出を繰り返すのが特徴です。

潮が引いた干潮時の干潟で潮干狩りを楽しんだことがある方も多いのではないでしょうか。

干潟の陸に近い場所には、ヨシやシオクグが生い茂る塩性湿地が発達するケースが多く見られます。

干潟や湿地では、ヨシなどの植物が光合成でCO₂を吸収します。加えて、そこに生息する生き物の遺骸が泥の中に溜まることにより、生物の体を構成していた炭素がブルーカーボンとして貯留されます

マングローブ林

マングローブ林は、東南アジアや南米などの熱帯~亜熱帯地域で見られるブルーカーボン生態系です。日本では、鹿児島や沖縄で見ることができます。

マングローブという名前の植物があるわけではなく、河口付近の淡水と海水が混ざり合う場所に生育する植物をまとめてマングローブと呼びます。

マングローブ林は、単位面積あたりのCO₂吸収速度が4つのブルーカーボン生態系の中でもっとも速いことが知られています。

成長に伴って多くの炭素を貯留することに加えて、マングローブ林の泥の中には枯れた枝・根を含む有機炭素が堆積。長期間炭素を貯留し続けます。

ブルーカーボン生態系はCO₂吸収源として温暖化防止に役立つだけでなく、次のような恩恵ももたらしてくれます。

  • 海をきれいにする
  • 多くの生き物の命を育む場となる
  • 教育やレジャーの場を提供してくれる

例えば、藻場や干潟は私たちの生活排水に含まれる有機物などの汚染源を吸収・分解することで、水質や泥質を浄化し沿岸域の環境を守っています。

また、藻場が作る茂みは水生生物の産卵場所や生育場にもなります。「海のゆりかご」として、多くの生き物の命を育む重要な役割も果たしているのです。

他にも、海の自然や生き物の観察などを通した環境学習の機会を与えてくれたり、潮干狩りやシュノーケリングなどのレジャーの場を提供してくれたりと、さまざまなメリットがあります。

ブルーカーボン生態系を保全することは、生物多様性を守るとともに、私たちの暮らしの豊かさにもつながっていくのです。

ブルーカーボン生態系にはさまざまなメリットがある一方で、次の2つのデメリットも持ち合わせています。

  • 環境変化に弱く破壊されやすい
  • CO₂の放出源になる可能性がある

例えば、海水温が上昇すると、藻場の生態系のバランスが崩れて藻場の減少・消失につながる可能性が高くなります。

また、流入河川の水質悪化に伴って海水の透明度が低下すると、水中に届く太陽光が不足し光合成ができなくなるため、藻場は消失してしまいます。

ひとたびブルーカーボン生態系が破壊されれば、当然ながらCO₂の吸収・貯留機能は失われてしまいます

しかしそれだけでなく、ブルーカーボン生態系により貯蔵されていたCO₂が大気中に放出されることで、温暖化を加速させるリスクもはらんでいます

一度消失したブルーカーボン生態系を再生するのは簡単なことではありません。回復に数年から数十年かかることもあれば、回復が不可能なケースもあります。

現存するブルーカーボン生態系をいかに守っていくかが重要なのです。

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藻場や干潟などの海洋生態系によって取り込まれる炭素をブルーカーボンと呼ぶのに対し、陸上の森林などが吸収・貯留する炭素を「グリーンカーボン」と呼びます

もともとは陸・海の両方で吸収される炭素をまとめてグリーンカーボンと呼んでいましたが、2009年にUNEPの報告書によってブルーカーボンが提唱されたことで、それぞれを区別するようになりました。

森林や草原、熱帯雨林など陸上にある植物はグリーンカーボン生態系と呼ばれます。

樹木のCO₂吸収量は成長とともに少なくなるため、人工林が成熟期を迎えた今、グリーンカーボン生態系によるCO₂吸収量は急速に減少しているのが現状です。

そうした状況も考慮すると、ブルーカーボンの重要性はますます増加すると考えられます。

CO₂の吸収・貯留メカニズムはブルーカーボン生態系の種類によっても異なります。ここでは例として、藻場におけるメカニズムを見てみましょう。

CO₂は水に溶けやすいため、海洋全体には大気中の50倍ものCO₂が存在するといわれています。

海藻や海草などの海洋植物は、こうした海水に溶け込んだCO₂を光合成によって吸収。やがて、植物が枯死して海底に沈殿・堆積することで、海底の泥場に炭素が貯留されます

海底の泥場は無酸素状態のため、沈殿した有機炭素はバクテリアによる分解が抑えられて数百年から数千年の長期間にわたり貯留されます

実際に、瀬戸内海の海底調査では、約3,000年前の地層からアマモ由来の炭素が発見されたという事例も。

なお、海底には年間1.9億トン~2.4億トンの炭素が新たに埋没・貯留されると推定されています。

その貯留される炭素の約73~79%が、海洋全体の面積の1%にも満たない浅い海域に集中していることから、ブルーカーボン生態系が炭素貯蔵庫として重要な役割を果たしていることがうかがえます。

CO₂炭素吸収源として高いポテンシャルを秘めたブルーカーボン生態系。しかし、そのブルーカーボン生態系は世界中で消失の危機にさらされています。

UNEPの報告書「Blue carbon」では、ブルーカーボン生態系は年間2%~7%の割合で減少していると警鐘を鳴らしています。

マングローブ林に関しては、開発や過剰な伐採などにより毎年約1%の割合(世界の森林消失の3倍~5倍の速さ)で面積が減少しているとの推定もあり、その減少は実に顕著です。

日本でも、20世紀初頭に存在していた東京湾湾岸線の広大な干潟が、干拓・埋め立てなどによって20世紀のうちに約90%も消失

さらに、藻場が減少・消失して元に戻らなくなる「磯焼け」と呼ばれる現象も、近年全国各地で拡大しています。

新たなCO₂吸収源として期待されるブルーカーボン生態系を保全・再生していくことが、今後の温暖化対策のカギを握ると言っても過言ではありません。

ブルーカーボン生態系の活用において高いポテンシャルを秘めている、島国・日本。

国内では、政府や企業、自治体などによって、ブルーカーボン生態系の保全・再生・活用に向けたさまざまな取り組みが行われています。

政府の取り組み

環境省では、IPCC湿地ガイドラインを踏まえつつ、ブルーカーボン生態系の排出・吸収量の算定・計上に向けた検討を進めています。

2024年4月には、世界初となる海草藻場・海藻藻場の吸収量の算定を行い、合わせて約35万トンであったことを国連に報告しています

また、瀬戸内海などの閉鎖性海域を中心とした日本の沿岸域において「令和の里海づくり」モデル事業を実施。地域のブルーカーボン生態系を守るための活動を支援しています。

国土交通省では、ブルーカーボン生態系の活用などによるCO₂吸収源対策に取り組むことで「カーボンフリーポート」の実現を目指しています

2019年には「地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会」を設置。ブルーカーボンを吸収源として活用していくための具体的な検討を行っています。

水産庁では、藻場・干潟を保全・創造するため、地方公共団体や地域の活動組織の取り組みを支援。加えて、磯焼け対策の手引きとなる「磯焼け対策ガイドライン」の策定や、「磯焼け対策全国協議会」の開催を通して、取り組みの強化を図っています。

企業の取り組み

国内では、多数の企業がブルーカーボン生態系の保全に向けた活動を実施しています。

ここでは例として、日本製鉄株式会社の取り組みと、一般財団法人セブン‐イレブン記念財団などによる取り組みをご紹介します。

  • 鉄鋼スラグを利用した海藻藻場の再生「海の森づくり」(日本製鉄株式会社)
  • 東京湾UMIプロジェクト(一般財団法人セブン‐イレブン記念財団など)

鉄鋼スラグを利用した海藻藻場の再生「海の森づくり」|日本製鉄株式会社

日本製鉄株式会社では、ブルーカーボンという言葉がまだ誕生していなかった2004年から、北海道・宮城県など全国4ヶ所で海藻藻場の再生活動に取り組んでいます。

藻場衰退のメカニズムの検証から、鉄鋼スラグ(製鉄プロセスの副産物)を活用した藻場再生技術の開発、実海域での実証実験まで体系的な取り組みを実施

北海道増毛町の沿岸では、2015年~2022年の約7年間で藻場面積が5.5倍に拡大するなど、ブルーカーボン生態系の保全・再生に貢献しています。

東京湾UMIプロジェクト|一般財団法人セブン‐イレブン記念財団ほか

国土交通省が主催する東京湾UMIプロジェクトは、東京湾に「海のゆりかご」と呼ばれるアマモ場を再生させるプロジェクトです。

東京湾の豊かな生物多様性を取り戻すとともに、プロジェクトの活動を通して、一人ひとりが海への理解・関心を深めることを目指しています。

一般財団法人セブン‐イレブン記念財団の他、マルハニチロ株式会社など計8社が参画。

2024年4月に実施された活動では、横浜市にある「海の公園」に約130人が集まりアマモの苗移植を行いました

自治体の取り組み

海に面した地域では、自治体におけるブルーカーボンの取り組みも積極的に行われています。

ここでは例として、宮城県と鳥取県の取り組みをご紹介します。

宮城ブルーカーボンプロジェクト

宮城県では、2021年より宮城ブルーカーボンプロジェクトがスタートしました。プロジェクトの舵を取るのは、宮城県ブルーカーボン協議会です。

プロジェクトでは、CO₂量の算定に欠かせないインベントリデータの収集や、CO₂算定技術の開発、モデル地区での藻場造成などを推進

また、宮城をブルーカーボンの発信拠点にするべく、セミナーやシンポジウム、イベントなども積極的に開催しています。

鳥取ブルーカーボンプロジェクト

鳥取ブルーカーボンプロジェクトは、日本財団「海と日本プロジェクト」の一環として2022年に始まったプロジェクトです。

鳥取の海では、ムラサキウニによる食害などによって藻場が失われる「磯焼け」が深刻化。

プロジェクトでは、藻場減少の要因となるムラサキウニを採取し、藻場の回復を目指しています

また、採取したムラサキウニを活用すべく、ウニの加工品・メニュー開発に取り組んだり、小学校などでさまざまな体験プログラムを実施し、子ども達に海について考える機会を提供したりしています。

2050年のカーボンニュートラルを実現するためには、ブルーカーボン生態系を活用してCO₂吸収源の拡大を図る必要があります。

そこで、国土交通省の認可法人である「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)」によって、2020年に新たなカーボンクレジット制度である「Jブルークレジット®」が創設されました。

これは、藻場の保全活動などにより創出されたCO₂吸収量をクレジットとして認証・発行する制度です。

カーボンクレジットとは、企業間などで温室効果ガスの排出削減量を取引できる仕組みのこと。

購入する側は、企業努力ではどうしても削減できない分をクレジットを購入することで埋め合わせることができます(こうした考え方を「カーボン・オフセット」と言います)。

また、Jブルークレジット®を販売する企業などは、売り上げをブルーカーボン生態系の再生・創出などに活用することで、さらなるCO₂排出削減活動に注力できます

ブルーカーボン生態系の保全・再生に向けた取り組みを持続可能なものにしていくため、Jブルークレジット®の活用に期待が寄せられています。

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地球温暖化の進行が加速の一途をたどっている今、私たち一人ひとりも自主的に温暖化対策に取り組む必要があります。

家庭からのCO₂排出量1位は「電気」

私たちの生活に欠かせないエネルギーである電気は、発電過程において多くのCO₂を排出します。

国立環境研究所が公表している2022年度の「家庭からのCO₂排出量(燃料種別)」を見てみると、もっともCO₂を排出しているのは「電気」で全体の47.2%を占めています

温暖化を防ぐためには、日頃から節電などを意識して、家庭の電気使用に伴うCO₂排出量を削減することが重要です。

温暖化対策に「エコな電気」の選択肢を

節電よりも効率良くCO₂排出量を減らすには、「エコな電気」に切り替えるという選択肢もあります。

CO₂を排出しないエコな電気を選ぶことで、家庭からのCO₂排出量の約半分を簡単に削減可能です

さらに、一度エコな電気に切り替えれば、その後は毎月継続的にCO₂削減効果が見込めるのもポイント。いつもと同じライフスタイルのまま、手軽に温暖化対策に取り組めます。

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エバーグリーンへの切り替えによって削減できるCO₂排出量は、一般家庭で年間1,562kg-CO₂。

この削減量は、杉の木約112本が1年間に吸収するCO₂量に相当します。

※300kWh/月×12か月×0.434kg-CO₂/kWh(令和3年度全国平均係数)より算出
※杉の木1本当たりの年間吸収量14kg-CO₂/年と想定(環境省資料より)

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切り替えのお申し込みはWebから5分ほどで簡単に完了します。

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新たなCO₂吸収源として期待されるブルーカーボン。消失を食い止め、温暖化対策として活用していくために、国や企業などではさまざまな活動が行われています。

しかし、地球規模での気温上昇が加速の一途をたどっている今、これ以上温暖化を悪化させないためには、私たち一人ひとりの主体的な取り組みも非常に重要です。

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