【目次】
酸性雨とは
酸性雨とは、通常よりも強い酸性を示す雨や雪、霧のことです。一般的に、pH5.6以下(※)の降水を酸性雨と呼びます。
通常の場合でも、大気中の二酸化炭素(CO₂)が溶け込むため雨水は酸性を示します。CO₂が十分に溶け込んだ雨水のpHが5.6であることから、この値が酸性雨かどうかを判断するひとつの基準となっています。
酸性雨は、河川や湖沼、土壌を酸性化させ、魚などの水生生物や植物などの生態系に悪影響をおよぼす深刻な環境問題です。
さらに、コンクリートを溶かしたり、金属に錆を発生させたりするなど、建造物への被害も大きな社会問題となっています。
※ph(ピーエイチまたはペーハー): 酸性度を表す指標です。中性の場合、phは7を示します。phが7未満であれば酸性、7より大きければアルカリ性と定義されています。
酸性雨の原因
酸性雨の主な原因物質は、二酸化硫黄(SO₂)や窒素酸化物(NOx)です。
SO₂やNOxは、火山活動などの自然現象によっても放出されますが、工場での化石燃料の使用や自動車の排ガスなど、人間活動によっても多量に放出されます。
大気中に排出されたSO₂やNOxが、硫酸や硝酸などの強い酸性物質に変化し、雨水に溶け込んだものが酸性雨です。
また、酸性雨というと雨や雪をイメージする方が多いかもしれませんが、晴れた日に大気中の酸性物質が粒子の形で降ってくることもあります。一般的には、こうした乾いた粒子状の降下物も酸性雨と呼びます。
酸性雨の原因物質は国境を越えて数百から数千kmも運ばれるため、他国が排出した原因物質が日本に影響をおよぼすこともあります。
酸性雨がおよぼす影響
酸性雨は、自然環境から人間の暮らし・健康に至るまで、広範囲にさまざまな悪影響をおよぼします。
過去の被害事例とあわせて、酸性雨が私たちにもたらす影響を見てみましょう。
河川・湖沼など水環境への影響
酸性雨の代表的な被害として挙げられるのが、水環境への影響です。
酸性雨によって河川や湖沼、池などが酸性化すると、魚などの水生生物が住めない環境になります。
1950年代には、スウェーデンなどの北欧諸国において、湖沼の酸性化により魚類が死滅するなど被害が深刻化しました。
また、魚類への影響はノルウェー最南部の湖沼においても確認されており、1940年に2500匹以上いたマスの約半数が、1975年には姿を消しています。
こうした魚類などの減少に伴う生態系バランスの崩壊は、生物多様性の喪失にもつながる重大な問題として懸念されています。
森林への影響
酸性雨が長期に渡って降り続けると、地表の水や土の性質が変わって樹木が育ちにくくなります。最悪の場合、森林全体が枯れてなくなることもあります。
代表的な例が、ドイツ・チェコ・ポーランドの国境地帯、いわゆる「黒い三角地帯」での被害です。
この地域では、酸性雨により樹木の半数以上が枯死するという深刻な被害が発生しました。多量の硫黄を含む石炭が火力発電などで使用され、硫黄酸化物や硫酸などが高濃度で降り注いだことによる被害です。
日本でも、1970年代に「雨に打たれた野菜の葉が変色した」「山の木が枯れている」といった被害報告が相次いだ事例があります。
建造物・文化財への影響
酸性雨には、コンクリートを溶かしたり、金属にサビを発生させたりする作用があります。これにより、建物・道路などの建造物や、歴史的価値の高い文化財にも悪影響をおよぼします。
建物の軒下にコンクリートのつららが下がっていたり、銅像に液体が流れたような白い筋が走っていることがありますが、これらは酸性雨の被害によるものです。
ヨーロッパでは、ドイツのケルン大聖堂やロンドンのウェストミンスター寺院などの歴史的建造物において、外壁のはがれや彫刻物の腐食が進んでいることが社会問題になっています。
人間への影響
過去には、酸性雨による健康被害の事例も報告されています。
日本では、1974年7月に関東地方において降った酸性雨により、約32,000人が目の痛みなどの症状を訴えました。
また、酸性雨が霧の形をとると、原因物質を吸入しやすくなるため、呼吸器などに重篤な症状を引き起こす可能性が高くなります。
1952年12月に起きたロンドンスモッグ事件では、亜硫酸ガスなどを含む強い酸性の濃霧が5日間にかけてロンドンの街を覆い、多くの人が呼吸困難やチアノーゼなどを発症しました。その後の調査では、このスモッグによる死者は約12,000人にもおよぶとされています。
日本国内における酸性雨対策
日本では、1970年代半ばに関東地方を中心に酸性雨による人的被害が発生したことをきっかけに、本格的な酸性雨調査が行われるようになりました。
また、酸性雨に先立って社会問題化していた公害への対策として、硫黄酸化物の排出規制に早くから取り組んでいたことが、酸性雨対策として功を奏しています。
環境省による酸性雨モニタリング
環境省では、1983年度から2000年度まで、4次にわたって酸性雨のモニタリングを実施してきました。
現在も、オゾンやPM2.5などを対象に加えた「越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング計画」にもとづいて、酸性雨の影響の早期把握や将来予測のためのモニタリングが継続されています。
日本では、欧米で指摘されたような大規模な生態系への被害は報告されていません。加えて、中国における大気汚染物質の排出量減少に伴い、国内の降水の酸性度は改善しつつあります。
しかし、2022年のモニタリング結果では、国内の降水の全平均値pHは5.07と、依然として酸性化した状態にあることが示されており、今後も継続的なモニタリングが必要とされています。
酸性雨の原因物質の排出削減対策
日本では、1960年代から1970年代にかけての高度成長期に、全国の工業地帯で硫黄酸化物が大量に排出され、四日市ぜんそくをはじめとする公害問題を引き起こしました。
1974年に硫黄酸化物の総量規制が導入されたことをきっかけに、工場・発電所などにおいて排煙脱硫装置の設置が進み、これが結果として酸性雨対策にもつながっています。
現在、国内工場における排煙脱硫装置の設置率は世界でもトップクラスです。
この他、ガソリン乗用車の排気ガス(NOx)処理対策も実施するなど、酸性雨の原因物質削減に取り組んでいます。
酸性雨に対する国際的な取り組み
酸性雨の影響は原因物質の排出地域だけにとどまらず、発生源から遠く離れた地域にまで被害がおよぶことがあります。
そのため、酸性雨は国境を越えた環境問題のひとつとして、各国が協力して国際的な対策が進められています。
酸性雨に対する国際協調の取り組みとしては、次の4つが代表的です。
- 長距離越境大気汚染条約(ウィーン条約)
- ヘルシンキ議定書
- ソフィア議定書
- 東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)
順番に見ていきましょう。
長距離越境大気汚染条約(ウィーン条約)
長距離越境大気汚染条約は、歴史上初となる越境大気汚染に関する国際条約です。ウィーン条約とも呼ばれます。
1979年に国連欧州経済委員会(ECE)において採択され、1983年に発効しました。
早期から深刻な酸性雨問題に直面してきたヨーロッパ諸国を中心に、アメリカ・カナダなど49ヶ国が加盟しています。
酸性雨などの越境大気汚染の防止対策を加盟国に義務付けている他、被害影響の監視や評価、原因物質の排出削減対策、国際協力・モニタリングの実施などについても規定しています。
ヘルシンキ議定書
長距離越境大気汚染条約にもとづく、硫黄酸化物の排出削減について定めた議定書です。
1985年に採択、1987年に発効し、国連欧州経済委員会(ECE)に属する21ヶ国が署名しました。
同議定書では、加盟国に対して、1993年までに1980年比で少なくとも30%の排出量削減を求めるとともに、国別の削減目標量が定められました。
その後、ヘルシンキ議定書はオスロ議定書(1994年採択、1998年発効)に置き換えられています。
ソフィア議定書
長距離越境大気汚染条約にもとづいて、各国の窒素酸化物の排出量について規定した議定書です。
1988年に国連欧州経済委員会(ECE)に属する25ヶ国が署名し、1991年に発効しました。
この議定書では、1994年までに参加国が窒素酸化物の排出量を1987年時点の水準に凍結することに合意しました。さらに、スイスを中心とした12ヶ国は、1989年から10年間で排出量を30%削減することも宣言しています。
加えて、新しい施設や自動車については、可能な限り最良の技術を使って排出基準を守ることが義務付けられ、参加国における窒素酸化物の排出量削減に大きな影響を与えてきました。
東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)
東アジア地域では、近年の工業化の進展に伴い、今後酸性雨の影響が大きくなることが懸念されています。
そこで、東アジア地域における酸性雨問題の協力体制の確立を目的として、2001年に東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)が設立されました。
現在、日本・中国・韓国・フィリピン・インドネシアなど13ヶ国が参加しています。
EANETでは、共通の手法を用いた酸性雨のモニタリングを実施し、得られたモニタリングデータの収集や評価などの活動を行っています。
近年は活動の対象範囲を大気環境全般に拡大し、より柔軟かつ迅速な対応が可能になっています。
酸性雨だけじゃない!近年深刻化する地球環境問題
私たちは現在、酸性雨の他にも、地球温暖化や海洋汚染、森林破壊、砂漠化など、さまざまな地球環境問題に直面しています。
そのなかでも特に懸念されているのが、地球温暖化です。
2023年7月には世界の平均気温が過去最高を記録し、国連が「地球沸騰化」と警告するほど、現在の温暖化の状況は深刻です。
また、温暖化の進行に伴い、猛暑や干ばつ、豪雨などの異常気象が世界各地で頻発しています。
このまま地球が温暖化し続ければ、台風・洪水・高潮などの自然災害リスクの増加や、熱中症・感染症リスクの増大なども懸念されます。
加速する地球温暖化を食い止めるためには、国の政策や企業活動における温暖化対策だけでなく、個人でも積極的に温暖化防止に取り組むことが重要です。
エバーグリーンのエコな電気で地球環境保全に貢献
個人でもできる温暖化対策として近年注目されているのが、環境に優しいエコな電気を使うことです。
地球温暖化の主な原因は、温室効果ガスのひとつであるCO₂です。
国立環境研究所のデータによれば、家庭におけるCO₂排出量のうち、もっとも多いのが電気の使用に由来するものです。
そこで、家庭の温暖化対策を推し進める手段として、CO₂を排出しないエコな電気が選ばれています。
再生可能エネルギーのリーディングカンパニー「イーレックスグループ」の一員である『エバーグリーン』は、電力事業20年以上の豊富な経験とノウハウを活かし、日本全国(沖縄と一部離島を除く)にエコな電気をお届けしています。
再生可能エネルギー実質100%の環境に優しい電気をすべてのプランで提供しているため、エバーグリーンへの切り替えによって、家庭の電力使用によるCO₂排出量はゼロになります。
切り替えによる年間のCO₂削減量は、一般家庭の場合、1,562kg-CO₂です。
これは、杉の木約112本分の年間のCO₂吸収量に相当します。
※300kWh/月×12か月×0.434kg-CO₂/kWh(令和3年度全国平均係数)より算出
※杉の木1本当たりの年間吸収量14kg-CO₂/年と想定(環境省資料より)
地球環境を守るために、ぜひエバーグリーンのエコな電気への切り替えをご検討ください。
地球環境を守るために一人ひとりができることを考えよう
酸性雨によって失われた生態系を元通り回復させることは大変困難です。
酸性雨の原因物質は国境を越えて広範囲に被害をもたらすため、日本を含め世界各国が協調して酸性雨対策を実施しています。
さらに、現在は酸性雨だけでなく、地球温暖化などの環境問題も深刻化しており、私たち一人ひとりが環境保全対策に取り組むことが求められています。
例えば、毎日使う電気をエコなものに切り替えるのも、未来の地球を守る手段のひとつです。
環境に優しい暮らしの実現に向けて、ぜひエバーグリーンのエコな電気をご検討ください。
(出典)
- 気象庁|酸性雨についてよくある質問
- 国立研究開発法人国立環境研究所|越境する大気汚染(2)「酸性雨の話」
- ウェザーニュース|いま、酸性雨はどうなっているの?
- 一般財団法人日本環境衛生センター アジア大気汚染研究センター|酸性雨について
- 一般財団法人環境イノベーション情報機構|建造物の劣化
- なごや環境大学|身近な場所にある酸性雨被害
- 埼玉県|雨をよごしたのは誰?-埼玉県における酸性雨の歴史-
- National Geographic|Acid rain, explained
- 一般財団法人環境イノベーション情報機構|ロンドンスモッグ事件
- Britannica|Great Smog of London
- 環境省|越境大気汚染・酸性雨対策調査
- 環境省|令和6年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書
- 環境技術(2021年5号)|日本における陸水酸性化の現状と未来
- 環境展望台|排煙脱硫技
- 一般財団法人環境イノベーション情報機構|長距離越境大気汚染条約
- 一般財団法人環境イノベーション情報機構|ヘルシンキ議定書
- 一般財団法人環境イノベーション情報機構|オスロ議定書
- 一般財団法人環境イノベーション情報機構|酸性雨に対する取り組み
- 一般財団法人環境イノベーション情報機構|ソフィア議定書
- 環境省|東アジア酸性雨モニタリングネットワーク (EANET)
- 外務省|東アジア酸性雨モニタリングネットワーク
- 国際連合広報センター|記者会見におけるアントニオ・グテーレス国連事務総長発言(ニューヨーク、2023年7月27日)
- United Nations|It’s official: July 2023 was the warmest month ever recorded
- 東京都気候変動適応センター|気候変動により予測される影響
- 国立研究開発法人国立環境研究所|日本の温室効果ガス排出量データ(1990~2022年度)(確報値)