SBT(Science Based Targets)認定とは?概要やメリットを解説

ビジネス関連
2025年1月16日

SBT(Science Based Targets)認定は、パリ協定が求める水準と整合した温室効果ガス排出削減目標を企業が設定し、運営機関の認定を受けるものです。概要やメリット、認定されている日本企業などについて解説します。

目次

SBT(Science Based Targets)認定とは

SBT認定の概要を簡単に説明

SBTは、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のことです。パリ協定は2015年12月にフランス・パリで開催された第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたもので、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をすることなどを目標に掲げています。

企業は5年から10年先の温室効果ガス削減目標を設定します。その目標をSBTの運営機関に申請することで、認定を受けることができます。その際、事業者自らの排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量であるサプライチェーン排出量の削減が求められます。

サプライチェーン排出量は、事業者自らによる温室効果ガスの直接排出を指すScope1と、他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出のScope2、それにScope1とScope2以外の間接排出であるScope3の合計です。Scope3まで含まれることがSBT認定の特徴と言えます。

SBT認定の運営機関は

SBT認定は、4つの機関によって設立されたSBTイニシアティブ(SBTi)によって運営されています。4つの機関はCDP、国連グローバルコンパクト(UNGC)、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)で、それぞれ環境問題などに取り組む国際的な組織です。

CDPは企業の気候変動、水、森林に関する世界最大の情報開示プログラムを運営する、イギリスで設立された国際NGOです。2024年3月現在、世界約2万3000社の環境データを所有していて、740を超える機関投資家のESG投資における基礎データとしての地位を確立しています。

UNGCは1999年に当時の国連事務総長が提唱した、企業や団体に「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」の4分野の実行を求めるイニシアティブです。約2万4000の企業や団体が加盟し、日本でも597の企業・団体が加盟しています。

WRIは、気候、エネルギー、食料、森林、水などの事前資源の持続可能性について調査・研究を行う国際的なシンクタンク。WWFは、生物多様性の保全や再生可能な資源利用などを目指して、世界100か国以上で活動している環境保護団体です。

この国際的な4つの機関によって設立されたSBTiは、企業に対して科学的知見と整合した目標を設定することを支援しています。

SBT認定の手続きと認定基準は

SBTの認定を受けるためには、温室効果ガス削減目標を設定し、SBT事務局に申請書を提出します。その際、任意でCommitment  Letterを事務局に提出できます。

Commitment  Letterに記載するコミットとは、2年以内にSBT設定を行う宣言のことです。コミットした場合、その内容はSBT事務局やCDPなどのウェブサイトで公表されます。

提出した申請書は、SBT事務局によって審査されます。目標の妥当性などが確認され、認定基準に該当していると判断されると認定され、公表されます。その後、認定を受けた企業は、温室効果ガスの排出量と、削減に向けた対策の進捗状況を年1回報告し、開示することになります。

認定基準として示されているのは、総量削減の手法で行う場合、温室効果ガス排出量を毎年4.2%削減することなどです。また、Scope3の排出量がScope1、2、3の合計の40%以上を占める場合には、Scope3の排出量削減目標の設定が必須になります。その際には、Scope3排出量全体の3分の2をカバーする目標の設定が求められます。

SBT(Science Based Targets)認定で企業が得られるメリットは

SBT認定に取り組む企業のメリット

企業はSBT認定に取り組むことによって、さまざまなメリットを得ることができます。まず、パリ協定に整合する持続的な企業であることを、ステークホルダーに対してアピールできることが挙げられます。

SBTは気候科学に基づく共通基準によって評価・認定される目標であることから、パリ協定に整合していることが分かりやすく伝わります。

主なステークホルダーは、投資家、顧客、サプライヤー、社員などです。持続可能な企業だとアピールすることで、評価の向上やリスクの低減などのメリットにつなげることができます。

SBT認定による対投資家・対顧客へのメリット

ステークホルダーのうち、対投資家へのメリットを見てみましょう。年金基金などの機関投資家の場合、中長期的なリターンを得るために、企業の持続可能性を評価する傾向があります。このため、持続可能性をアピールできるSBT認定は、ESG投資の呼び込みに役立ちます。

また、SBT認定を受けていると、多くの投資家が参加するCDPの採点で、得点が上がるメリットがあります。2017年以降のCDP質問書では、SBT認定を受けていると「リーダーシップ」の得点を上げることができます。

他のステークホルダーでは、取引先である顧客へのメリットも大きいと言えます。調達元へのリスク意識が高い顧客は、サプライヤーに対して野心度の高い目標や取り組みを求めていることから、SBT認定を受けることでこれらの顧客の声に応えることになります。その結果、自社のビジネスについてもリスクの低減や、新たな機会の獲得につながります。

中小企業も取り組むことができるSBT認定

SBT認定には、中小企業向けSBTもあります。SBT事務局が中小企業の目標設定に向けて独自のガイドラインを作成しています。2024年1月1日以降に申請する中小企業については、より取り組みやすくなるように要件が変更されました。

通常のSBTに比べても、取り組みやすいものになっています。目標を達成する年については、通常のSBTが申請時から5年以上、10年以内の任意の年に設定する必要があるのに対し、中小企業向けSBTでは2030年に設定します。

削減対象とする範囲は、通常のSBTがScope1、2、3の排出量の合計となっているのに対して、中小企業向けではScope1と2の排出量となっていて、Scope3の削減について基準値などはありません。また、申請費用も少なくて済みます。

SBT(Science Based Targets)認定を受けた日本企業

SBTに参加する日本企業の認定企業数

世界全体でSBTに参加する企業数は年々増加しています。環境省が作成した資料『SBT(Science Based Targets)について』によりますと、2024年3月時点で世界全体のSBT認定企業は4779社となっているほか、2年以内にSBT認定を取得すると宣言したコミット企業が2926社あります。

環境省『SBT(Science Based Targets)について』より

このうち、SBTに参加している日本企業は904社で、国別では最も多くなっています。特に、2023年3月から2024年3月までの1年間で479社が認定を取得するなど、日本企業の認定数は急増しています。

環境省『SBT(Science Based Targets)について』より

環境省による2024年最新のSBT認定企業一覧

2024年3月1日時点でのSBT認定企業は、環境省の『SBT(Science Based Targets)について』の中で、日本企業と海外企業がともに一覧で紹介されています。

(リンク)環境省『SBT(Science Based Targets)について』

日本企業については業種別に分類して紹介されています。大企業では電気機器が40社、建設業が28社と多くなっています。また、中小企業向けのSBT認定を受けた企業は704社にのぼります。

また、海外企業では専門サービス業、食料品製造業、不動産業でSBT認定を取得した企業が多くなっています。

環境省のSBT認定支援

環境省では、SBT認定に取り組む企業を支援する、SBT設定支援事業を実施しています。支援事業は大企業を対象としたもののほか、中小企業を対象にしたものもあります。SBTiが提供する申請プロセスを活用することで、中小企業でも目標設定や認定を目指すことができます。

SBT認定は今後ますます注目が高まることが予想されます。企業の規模に限らず、温室効果ガス排出量削減に貢献するSBT認定への取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。

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