パリ協定とは?今さら聞けない基本的な考え方や国内の取り組み、ビジネスとの関係をご紹介します。

ビジネス関連
2020年10月16日

私たちの日常生活やビジネスと密接な関係にある「パリ協定」。なんとなく聞いたことはあっても、明確に説明するのは難しいという方も多いのではないでしょうか。今回は、パリ 協定について、詳しくご紹介します。

目次

【目次】

パリ協定とは

■パリ協定の概要

国内の削減目標

 
■基本的な考え方

■各分野のビジョンと対策・施策の方向性

■「環境と成長の好循環」を実現するための横断的施策

■長期戦略のレビューと実践

ビジネスへの影響

まとめ

※この記事は、2020年10月16日に公開した記事ですが、文言やデータ、その他の部分も追記‧更新して2021年6 月22日に再度公開しました。

パリ協定とは


パリ協定とは、2016年11月4日に発効された2020年以降の気候変動の問題に関する、国際的な枠組みです。
それより以前の、1997年に採択された「京都議定書」と混同する方もいるかと思いますが、パリ協定はこの京都議定書の後継となるものです。

採択から発効までには①パリ協定に55ヶ国以上が参加すること②世界の温室効果ガス総排出量のうち55%以上をカバーする国が批准することの2つが条件とされ、専門家の間ではこの2つの条件が満たされるには時間がかかると予想されていましたが、当時の米国、オバマ大統領が中国やインドに批准を働きかけるなどした結果、異例のスピードで翌年2016年に発効されることとなりました。
それだけ、世界各国の地球温暖化に対する関心が高まっているといえるでしょう。

(出典:資源エネルギー庁|今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~)

(外務省|パリ協定~歴史的合意に至るまでの道のり~)

■パリ協定の概要

パリ協定の概要は以下のようになっています。

目的 世界共通の長期目標として、産業革命前からの平均気温の上昇を2℃より十分下方に保持。1.5℃に抑える努力を追求。
目標 上記の目的を達成するため、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出と吸収のバランスを達成できるよう、排出ピークをできるだけ早期に抑え、最新の科学に従って急激に削減
各国の目標 各国は、約束(削減目標)を作成・提出・維持する。削減目標の目的を達成するための国内対策をとる。削減目標は、5年毎に提出・更新し、従来より前進を示す
長期戦略 全ての国が長期の低排出開発戦略を策定・提出するよう努めるべき。(COP決定で、2020年までの提出を招請)
グローバル・ストックテイク(世界全体での棚卸し) 5年毎に全体進捗を評価するため、協定の実施を定期的に確認する。世界全体の実施状況の確認結果は、各国の行動及び支援を更新する際の情報となる。

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(出典:環境省|パリ協定概要)

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国内の削減目標


パリ協定は、歴史上はじめてとなる「全ての国が参加する公平な合意」としても注目され、日本も途上国に対し約1.3兆円の資金支援を行う等、採択に向けて多大な貢献を行ってきました。そして、本協定で各国の長期の低排出開発戦略の策定が求められているように、日本も20196月に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を策定し、国連に提出しました。ここでは、計5章からなるこの長期戦略のポイントをご紹介します。

■基本的な考え方

この長期戦略では、基本的な考え方(ビジョン)として、下記2点を設定しています。

① 最終到達点としての「脱炭素社会」を掲げ、それを野心的に今世紀後半のできるだけ早期に実現することを目指すとともに、2050年までに全体の8割の削減に取り組む。

② ビジネス主導の非連続なイノベーションを通じた「環境と成長の好循環」を実現、取組を迅速に実施。

■各分野のビジョンと対策・施策の方向性

各分野のビジョンと対策・施策の方向性はエネルギー、産業、運輸、地域・くらしという5つのカテゴリーに分かれ、各カテゴリーのポイントは以下のようになっています。

① エネルギー
エネルギー転換、脱炭素化を進めるためにあらゆる選択肢を追求します。
再生可能エネルギー の主力電源化
・火力発電は、パリ協定の長期目標と整合的にCO₂排出削減
・CCS※・CCU※/カーボンリサイクルの推進
・水素社会の実現/蓄電池/原子力/省エネ

※CCS:Carbon Capture and Storageの略。CO₂の排出源である発電所などから出たCO₂を回収して地下に貯蓄するシステム
※CCU:Carbon Capture and Utilizationの略。回収したCO₂を利用して新たなエネルギーにする技術の総称。

② 産業
脱炭素化ものづくりのために、下記取組を実施します。
・CO₂フリー水素の活用(「ゼロカーボン・スチール」への挑戦等)
・CCU/バイオマスによる原料転換(人工光合成等)
・抜本的な省エネ、中長期的なフロン類の廃絶等

 ③ 運輸
“Well-to-Wheel Zero Emission※”チャレンジへの貢献
・2050年までに世界で供給する日本車について世界最高水準の環境性能を実現
・ビッグデータ・IoT等を活用した道路・交通システム

※Well-to-Wheel Zero Emission:世界のエネルギーの製造から車の走行までの温室効果ガス排出をゼロにする取組

④ 地域・くらし
2050年までにカーボンニュートラルによるレジリエントで快適な地域とくらしの実現、地域循環共生圏の創造を目指します。
・住宅やオフィス等のストック平均でZEB・ZEH相当を進めるための技術開発や普及促進、ライフスタイルの転換など“カーボンニュートラルなくらし”の実現
・地域づくり(カーボンニュートラルな都市、農山漁村づくり)、分散型エネルギーシステム の構築

■「環境と成長の好循環」を実現するための横断的施策

基本的な考え方で定めた、「環境と成長の好循環」実現のために以下のような施策に取り組みます。

① イノベーションの推進
・温室効果ガスの大幅削減につながる横断的な脱炭素技術の実用化・普及のためのイノベーションの推進・社会実装可能なコストの実現

(a) 革新的環境イノベーション戦略
・コスト等の明確な目標の設定、官民リソースの最大限の投入、国内外における技術シーズの発掘や創出、ニーズからの課題設定、ビジネスにつながる支援の強化等
・挑戦的な研究開発、G20の研究機関間の連携を強化し国際共同研究開発の展開(RD20)等
・実用化に向けた目標の設定・課題の見える化

② グリーン・ファイナンスの推進
・イノベーション等を適切に「見える化」し、金融機関等がそれを後押しする資金循環の仕組みを構築

(a) TCFD※等による開示や対話を通じた資金循環の構築
・産業:TCFDガイダンス・シナリオ分析ガイド拡充/金融機関等:グリーン投資ガイダンス策定
・産業界と金融界の対話の場(TCFDコンソーシアム)
・国際的な知見共有、発信の促進(TCFDサミット (2019年秋)

※TCFD:気候関連財務情報開示タスクフォース

TCFDの詳しい解説はこちら

経営層、管理職必見!「TCFD」を理解して、企業の環境への取組を促進する

(b) ESG金融の拡大に向けた取組の促進
・グリーンボンド※発行支援、ESG地域金融普及等のESG金融への取組促進、ESG対話プラットフォームの整備、ESG 金融リテラシー向上、ESG金融ハイレベル、パネル 等

※グリーンボンド:企業や地方自治体等が、国内外のグリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発効する債権

ESG投資の詳しい解説はこちら

ESG投資とは?市場の動向とESG投資の種類

③  ビジネス主導の国際展開、国際協力
・日本の強みである優れた環境技術・製品等の国際展開/相手国と協働した双方に益するコ・イノベーション

(a) 政策・制度構築や国際ルールづくりと連動した脱炭素技術の国際展開
・相手国における制度構築や国際ルールづくりによるビジネス環境整備を通じた、脱炭素技術の普及と温室効果ガスの排出削減

(b) CO2排出削減に貢献するインフラ輸出の強化
・パリ協定の長期目標と整合的にCO2排出削減に貢献するエネルギーインフラや都市・交通インフラ(洋上風力・地熱発電などの再生可能エネルギー、水素、CCS・CCU、カーボンリサイクル、スマートシティ等)の国際展開

© 地球規模の脱炭素社会に向けた基盤づくり
・相手国におけるNDC策定・緩和策にかかる計画策定支援等、サプライチェーン全体の透明性向上

■長期戦略のレビューと実践

この長期戦略は、6年程度を目安としつつ情勢を踏まえて柔軟に検討を加えるとともに、必要に応じて見直しを行う。また、将来の情勢変化に応じた分析、連携、対話を行います。

(出典:外務省|パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略)

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ビジネスへの影響


パリ協定の発効に伴い、近年企業に求められているのが、再生可能エネルギーによる事業運営の推進です。日本政府も、中期目標として設定した温室効果ガス排出水準を達成するために、再生可能エネルギーの導入量を増やすなど、温室効果ガスの低排出なエネルギーミックスの推進と、さらなるエネルギーの効率を追求するとしています。
企業には、この流れを受けて自社の温室効果ガス排出量をさらに削減することはもちろん、再生可能エネルギーを使った商材、高機能素材や低炭素、省エネ製品の開発、普及が求められています。
このように環境に配慮した事業運営は、企業価値を高めることにもつながります。
ESG投資の拡大や投資家に対してESG情報を考慮した投資行動を求めるPRI(責任投資原則)へ署名する投資家・金融機関は2020年に3,000機関を超えており、企業に関わるステークホルダーからの関心の高さがうかがえます。
また、環境に配慮した企業の経営戦略を促進する、RE100 やRE Action等のイニシアチブへ加盟する日本企業の数は世界トップクラスです。 環境に配慮した取組を進めることで、他社と差別化を図り、新たなビジネスチャンスを獲得しようとする動きが出てきています。

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(出典:資源エネルギー庁|今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~)

(出典:資源エネルギー庁|CO2排出量削減に必要なのは「イノベーション」と「ファイナンス」 )

まとめ


いかがでしたでしょうか。
国が掲げる目標を達成するためには、ビジネスや日常生活において私たち一人一人の意識と取組が不可欠です。
これからのグローバル社会を生きぬくためにも、本記事が考えるきっかけになれば幸いです。

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