【事例付き】水素エネルギーについて分かりやすく解説。水素エネルギー導入の意義や具体的なビジョンとは?

ビジネス関連
2020年11月27日

度重なる地震、原子力発電所の事故、世界的な環境問題への意識の高まり等をきっかけに、日本のエネルギー事情は大きな転換期を迎えています。石炭や石油など従来の化石燃料に代わる、新たなエネルギー源として注目されている水素エネルギーについて、導入の意義や水素社会実現に向けた具体的なビジョン、課題などを事例を踏まえつつ、分かりやすく解説します。

目次

【目次】

水素とは

水素エネルギー導入の意義

■エネルギーセキュリティの向上


■環境対策


■産業振興

水素利用に向けてのビジョン

水素エネルギー活用事例

まとめ

※この記事は、2020年11月27日に公開した記事ですが、文言やデータ、その他の部分も追記・更新して2021年10月29日、2022年9月22日に再度公開しました。

水素とは


水素は、無色無臭の地球上で最も軽い気体であり、水などのように他の元素との化合物として地球上に大量に存在します。
その特徴は大きく2つあり、1つがさまざまな原料、資源からつくることが出来る点です。
例えば、電気を使用して水から取り出すことができる他、石油や天然ガスなどの化石燃料、メタノールやエタノール、下水汚泥、廃プラスチックなどからもつくることができます。また、製油所における石油精製プロセスや、化学工場などでもプロセスにおいて副次的に水素が発生します。
2つ目が、エネルギーとして利用してもCO₂が排出されない点です。水素は、酸素と結びつけることで発電したり、燃焼させて熱エネルギーとして利用することが出来ますが、発電時、エネルギー利用時にCO₂を排出しません。

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(出典:新エネルギー・産業技術総合開発機構|水素エネルギー白書)

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水素エネルギー導入の意義


これらの特徴をもつ水素をつかった水素エネルギーは、究極のエネルギー源となる可能性があるとして大きく注目されています。
究極のエネルギー源と言われる理由には、エネルギー・セキュリティ、環境対策、産業振興という3つのポイントがあります。

■エネルギーセキュリティの向上

水素エネルギーの導入推進は、2014年4月に策定されたエネルギー基本計画で定められた3E+S※と国際化推進、国際市場の開拓と経済成長に貢献するものと言われています。
90%以上の一次エネルギーを海外から輸入する化石燃料に依存している日本で は、常に国際情勢の影響を受けやすい等のリスクを抱えています。しかし、水素エネルギーであれば、例えば海外の褐炭や原油随伴ガスなどの未使用エネルギーや、再生可能エネルギーなどを用いて製造できる可能性があり、地政学的なリスクを受けにくい地域から安価にエネルギー源を調達することで、エネルギーコストを抑制しつつ、エネルギー調達先の拡大に繋がることも期待されます。
また、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入が拡大することで、季節や時間帯によって余った余剰エネルギーから水素をつくることも可能になり、国内の資源を水素の原料として活用すれば、今は低い国内のエネルギー自給率向上にも繋がります。

※3E+S エネルギーの安定供給、経済効率性の向上、環境への適合、安全性

(出典:資源エネルギー庁|水素・燃料電池に関する 経済産業省の取組について)

■環境対策

初めに述べた通り、水素エネルギーは利用時にCO₂を排出しないエネルギーとして、CO₂削減などの環境対策、脱炭素化社会の実現に役立てることが出来ます。CCS※と呼ばれる、水素の製造時にCO₂を回収し地中に貯蔵する技術と組み合わせる等してCO₂を抑制することが検討されています。また、生ごみや植物など大気中のCO₂量に極力影響を与えないカーボンニュートラルなバイオマス燃料を原料に水素をつくれば、大気への影響も抑えることが出来ます。また、再生可能エネルギーを使用して水素をつくれば、CO₂を全く排出しない「CO₂フリー」エネルギーとして活用することが出来ます。

※CCS:Carbon dioxide Capture and Storage

■産業振興

水素・燃料電池関連の市場規模は、日本だけでも2030年に1兆円程度、2050年に8兆円程度に拡大すると試算されており、将来的に大きく成長する分野として期待されています。
その一方で、日本の燃料電池分野の特許出願件数は世界1位で、2位以下の欧米をはじめとする諸外国と比べて5倍以上と大きな差があり、水素エネルギー利活用分野における現時点での日本の競争力は高いといえます。水素社会の実現を進めることで、日本の産業競争力を益々強化することが出来ます。

スライド2.JPG(出典:新エネルギー・産業技術総合開発機構|水素エネルギー白書)

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水素利用に向けてのビジョン


水素社会の実現に向けて、政府は様々な計画や戦略を策定し、公表しています。
その中の一つが、2017年12月に当時の安倍政権によって策定された「水素基本戦略」です。
水素基本戦略とは、2050年を視野に、将来目指すべきビジョンであると同時にその実現に向けた2030年までの行動計画を記したものです。
その中で具体的に示されている水素の利用先には、燃料電池自動車(FCV)や燃料電池バス(FC)、フォークリフト等の産業用車両があります。これらのモビリティに搭載されている燃料電池で水素を使って電気をつくり、自動車の動力に活用する等して、乗用車や貨物車の低炭素化を図ることができます。
また、電力分野においては、天然ガス火力発電等と同様に再生可能エネルギー導入拡大に必要となる調整電力・バックアップ電源として、水素発電に大きく期待がよせられています。
具体的には、国際的な水素サプライチェーンとともに「2030年頃の商用化を実現し、17円/kWhのコストを目指す」とし、1GWの発電容量に相当する年間30万t程度の水素の調達を目安にしています。将来的には、環境価値も含め既存のLNG火力発電と同等のコスト競争力を目指しています。
こうした基本戦略で掲げた目標を確実に達成し水素社会を実現するためには、クリアすべき課題が多くあります。例えば、海外資源等から大量に水素を調達するための製造、水素発電技術の確立、燃料電池自動車(FCV)やFCバス、エネファーム等における燃料電池システムのコストダウン等です。また、水素タンクや燃料を充てんするための水素スタンド等をはじめとする水素インフラにおいては、各省庁からの規制が多く、実用化するまでに時間がかかるといった問題を抱えています。

このような課題を解決すべく、水素を活用した技術開発目標や普及のステップなどについて、具体的に記したものが、「水素・燃料電池戦略ロードマップ」です。水素・燃料電池戦略ロードマップとは、2014年6月に策定された水素の製造から貯蔵・輸送・利用に係る様々な要素を含む、全体を俯瞰したロードマップのことです。

目指すべきターゲットについては、例えば現在300万円ほどの差があるFCVとHV(ハイブリッド自動車)の価格を2025年頃までに価格差70万円に縮めることや、燃料電池などのFCVを構成する主要なシステムのコスト低減についても明確な目標値が示されています。
また、水素の製造・供給にかかるコストについても20年代前半と2030年までに、どのくらい下げるのか具体的な目標値が明記されています。化石燃料から水素をつくる過程で発生するCO2については、「CCS」と呼ばれる技術で地中に貯留・圧入することで、水素の作成から使用までトータルでカーボンフリーなエネルギーが実現できるとしています。

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(出典:水素・燃料電池ロードマップ(概要)資源エネルギー庁)

また、産学官だけでなく業種を超えた連携を図り、安全性の確保と低コスト化を同時に実現しながら水素の利活用を拡大するために設置された有識者による「評価ワーキンググループ」では、サプライチェーンや水素の利活用の分野ごとに、事業者からのヒアリングなどを行い、状況の確認や将来の目標の再検討など、取組に係るフォローアップを年に1度実施しています。その時の社会情勢や技術開発動向の影響などによって、方針転換が必要な場合には、原因の検証、方針の転換を含めた目標の再検討を行っています。

(出典:経済産業省|水素・燃料電池に関する 経済産業省の取組について)

(出典:経済産業省|水素基本戦略)

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水素エネルギー活用事例


日本では、世界に先駆け「水素社会」を実現するための様々な取組や実証実験などを進めています。その中には、世界初のプロジェクトや県全体を新たなエネルギー社会のモデル創出拠点とする取組等があります。ここでは、水素エネルギーを活用した事例を3つご紹介します。

■世界初となる「液化水素運搬船」の進水式を実施
先にも述べた通り、様々な資源・原料からつくることのできる水素ですが、例えば廃棄物や、品質の問題で利用されず埋蔵されたままのエネルギー燃料から大量につくることができれば、コストを抑えつつ、エネルギーを安定的に確保することができます。

こうした観点から、輸送が難しく利用先が限定されている低品質な石炭である「褐炭」を活用し、オーストラリアで水素を製造して日本へ運ぶことを目指した「褐炭水素プロジェクト(未利用褐炭由来水素大規模海上輸送サプライチェーン構築実証事業)」が進められています。

このプロジェクトで重要視されているのが、液化した大量の水素を長距離輸送する技術を実証するための「液化水素運搬船」です。2019年12月11日に、川崎重工業が製造した世界初となる液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」の進水式がおこなわれました。

■ブルネイで水素化プラントの開設、日本への輸送実証実験
「すいそ ふろんてぃあ」の例と同じく、海外の利用されていないエネルギー資源を使って水素を製造し、日本へと輸送する実証実験は他の国でも進められています。

東南アジアのボルネオ島北部に位置するブルネイでは、技術研究組合「次世代水素エネルギーチェーン技術研究組合(AHEAD)」による、「有機ケミカルハイドライド法による未利用エネルギー由来水素サプライチェーン実証実験」が行われています。

「有機ケミカルハイドライド法」とは、そのままでは輸送しづらい水素をほかの物質と化学反応を起こさせて液体状の有機化合物にすることで、貯蔵や輸送を行いやすくするやり方です。実証を通じて、将来商用化されたサプライチェーンを設計・構築・運用するために役立つデータが収集されています。

このプロジェクトは既に始動しており、2019年11月27日に、水素化プラントのオープニングセレモニーが開催され、ブルネイで製造した水素は、すでに日本に向けて輸送を開始しています。

■福島水素エネルギー研究フィールド
「福島水素エネルギー研究フィールド」とは、福島県全体を新たなエネルギー社会のモデル創出拠点とすることで、福島の復興を後押ししようとする「福島新エネ社会構想」の柱の一つとして進められているプロジェクトです。
このプロジェクトでは再エネ電力を利用して水素を「作り」、「貯め・運び」、「使う」未来の水素社会実現に向けたモデルの構築を目的としています。その為にフィールドに整備された太陽光発電でつくった再エネ電気を使い、水素を製造する水素製造拠点を建設しようというものです。

実現の場として選ばれたのが、福島県浪江町で「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」の建設が進められ、2020年3月からは水素の製造・出荷にも着手しています。

(出典:2020年、水素エネルギーのいま~少しずつ見えてきた「水素社会」の姿|資源エネルギー庁)

まとめ


水素エネルギーは、今の時代に取り組むべき最重要課題の一つである環境問題や、低炭素、脱炭素社会の実現に貢献できるだけでなく、日本の産業競争力を高めるための大きな要素でもあります。解決すべき課題はたくさんありますが、当たり前に水素エネルギーが活用されている将来はそう遠くないはずですので、興味のある方は是非詳しく調べてみてください。

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