エネルギー供給強靭化法によって何が変わった?電気事業法などの改正ポイントについてわかりやすく解説

ビジネス関連
2021年4月9日

エネルギー供給強靭化法によって、一部改正された「電気事業法」「再エネ特措法」「JOGMEC法」のそれぞれの改正ポイントについてわかりやすくお伝えします。

目次

【目次】

電気事業法の改正ポイント

■災害時の連携強化

■送配電網の強靭化

■災害に強い分散型電力システム

再エネ特措法の改正ポイント

■市場連動型の導入支援(FIP制度の創設)

■再エネポテンシャルを生かす系統整備

■再エネ発電設備の適切な破棄

■長期未稼働の場合、認定を失効する措置

JOGMEC法の改正ポイント


■緊急時の発電用燃料調達


■燃料等の安定供給の確保

まとめ

※この記事は、2021年4月9日に公開した記事ですが、も追記更新して2023年5月23日に再度公開しました。

前回のコラム「【2020年6月成立】エネルギー供給強靱化法とは」 では、エネルギー供給強靭化法によって、「電気事業法」「再エネ特措法」「JOGMEC法」の一部が改正されること、その背景には日本の電力インフラ・システムが抱える「自然災害」「地政学的リスク」「再生可能エネルギー主力電源化」の3つの課題があることをご紹介しました。今回は、各法律の具体的な改正ポイントについてご紹介します。

電気事業法の改正ポイント


電気事業法の改正には、大きく「災害時の連携強化」「送配電網の強靭化」「災害に強い分散型電力システム」の3つのポイントがあります。

■災害時の連携強化

過去に日本のインフラ・システムが被災し、ブラックアウトや停電が長期化した主な理由には、倒木や飛来物による電柱の破損、それに伴う断線、また倒木などで一部地域への立ち入りが困難になったこと等があげられます。
立ち入り困難になった地域では、被害状況がすぐに確認できず、結果的に復旧作業に時間がかかるなど、復旧の長期化を招きました。また、すぐに復旧作業が開始できた地域でも、電力会社によって復旧手順が異なるなどの理由で、全国の電力会社や応援にかけつけた自衛隊、地方自治体との連携がスムーズに取れず、効率的な復旧を妨げる要因にもなりました 。

こうした経験を踏まえ、改正電気事業法では①送配電事業者に、「災害時連携計画」の策定を義務化しています。事前に計画を策定することで、有事のときに関係機関との連携をスムーズに行うことができ、効率的な復旧作業に繋がります。また策定した計画は、経済産業大臣に提出することが求められています。

更に、近年の災害の甚大化に伴う復旧作業の長期化や早期復旧を優先するためのコストを確保するために、②送配電事業者間で災害時の対応に係る費用を予め積み立て、被災した送配電事業者に対して交付する相互扶助制度が新たに創設されました。積立金は、被災した電気設備に応急処置を行うための「仮復旧」費用に充てられるほか、他の電力会社から電源車などを派遣してもらう場合にも活用できるため、被災地からの応援要請がしやすくなります。

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また、③送配電事業者に、復旧時における自治体等への個別の通電状況などの情報提供を義務化し、平時においても電気の使用状況等のデータを有効活用する制度の整備④有事に経済産業大臣がJOGMEC(海外での資源開発を担う独立行政法人石油天然ガス・金属機構)に対して、発電用燃料の調達を要請できる規定も追加されました。

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(出典:「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ②被災からの学びを活かした電気事業法改正|資源エネルギー庁)

(出典:エネルギー供給強靭化法案について|経済産業省)

■送配電網の強靭化

例えば、大規模地震などでブラックアウトした場合、他の地域から電力を融通することが出来れば、被害の拡大を抑えることができます。そのためには、異なる地域間を結んで大規模な電力を流すことができる「地域間線」を整備するなど、広域的な電力系統を構築する必要があります。このように、広域的な系統整備を推進しているのが、「電力広域的運営推進機関(電力広域機関)」です。

改正電気事業法では、この電力広域機関に①将来を見据えた広域系統整備計画策定業務を追加しました。これにより、送電網整備の増強要請に都度対応する従来のプル型系統整備から、増強要請がされる前に、計画的に対応をするプッシュ型系統整備に方針転換がなされました。流れとしては、まず、電力広域機関が広域系統整備計画を策定、計画を国に提出した後、提出した広域系統整備計画に基づいて送配電事業者が送配電網を整備する順番になります。

広域的な電力系統が整備されれば、発電量が天候によって左右されやすい再生可能エネルギーの導入拡大にも役立ちます。再エネが作り過ぎた電力を、余っているエリアから電力が不足しているエリアへと送電することができるようになれば、広域的に需給バランスをとることができるようになります。

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更に、②送配電事業者に、既存設備の計画的な更新を行うことも義務化しました。これは、データを活用した送配電設備の維持管理の高度化やコスト効率化にも役立つもので、無電柱化の推進など、将来も見据えた取り組みになっています。

一方で、送配電事業者による設備投資を促すためには、安定した投資回収を確立する必要があります。送配電網の設備投資費用は、私たちが支払っている電気料金から賄われています。電気料金に係る送配電網の使用料は「託送料金」と呼ばれ、送配電網の維持・運用にかかる「原価」のすべてに、適正な「利益」が加えて算定され、経済産業大臣の認可を受けて設定されています。
しかし、従来の制度では、例えば送配電事業者がコストの効率化を図り「利益」が一定の水準を超えると、経済産業大臣から「変更命令」がなされ、「託送料金」を引き下げが求められていました。これでは、安定した投資回収に繋がらず、送配電投資の促進の妨げになる可能性があります。

そこで、今回の改正では③経済産業大臣が送配電事業者の投資計画等を踏まえて収入上限(レベニューキャップ)を定期的に承認し、その枠内でコスト効率化を促す託送料金制度が創設されました。
この仕組みにより、コスト効率化分を、送配電事業者が「利益」として確保することが可能となり、例えばAI等の最新テクノロジーの導入による効率化も積極的に進められるのではないかと期待されています。

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(出典:「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ③被災に強く再エネ導入にも役立つ送配電網の整備推進|資源エネルギー庁)

(出典:エネルギー供給強靭化法案について|経済産業省)

■災害に強い分散型電力システム

分散型電力システムは、需要家の比較的近く、または地域に分散するかたちで需要を満たすだけの規模の発電設備をつくり、電力を供給するシステムです。小型の電源などを含む配電網を事業者自らが設置し運営するケースもあります。災害などの有事の際にこの分散型の配電網を、一般送配電事業者が運営する地域全体の送配電網から切り離し、独立したネットワークとして運用すれば、その配電網から電力を供給する住宅、ビルは停電などの影響を最小限に抑えられます。そこで、法改正では①地域において分散小型の電源等を含む配電網を運営しつつ、緊急時には独立したネットワークとして運用可能になるよう、配電事業を法律上位置づけました。また、山間部等において電力の安定供給・効率性が向上する場合、②配電網の独立運用を可能にしました。

しかしながら、配電事業に新規参入し、地域の配電網を自ら設置することはコスト面等から見ても非常にハードルが高くなってしまいます。そこで導入されたのが③「配電事業ライセンス」です。配電事業ライセンスによって、一般送配電事業者が運営していた配電網を新規事業者が借り受けたり、譲り受けたりするなどして、配電事業に参入できるようになります。

また、④「アグリゲーター」の役割を明記し、電気事業法上に位置付けたこともポイントです。アグリゲーターとは、分散型電源を束ねて一定程度の電力供給量を確保し、「供給力」として小売電気事業者に提供する事業者を指します。改正法では、アグリゲーターとして事業を始めるには、サイバーセキュリティ対策などの事業環境が整っているか確認されることが明記されています。

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(出典:「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ④次世代の電力プラットフォームもにらんだ法改正)

(出典:エネルギー供給強靭化法案について|経済産業省)

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再エネ特措法の改正ポイント


再エネ特措法(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法)は、電気事業法とは別に、再生可能エネルギーをつかった電気に関する特別のルールについて定めた法律です。「固定価格買取制度(FIT)」について定めていることから、「FIT法」とも呼ばれています。今回の改正では、再生可能エネルギーの利用を総合的に推進する観点から、題名を「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」に改正しました。

再エネ特措法改正のポイントは、「市場連動型の導入支援(FIP制度の創設)」「再エネポテンシャルを生かす系統整備」「再エネ発電設備の適切な破棄」「長期未稼働の場合、認定を失効する措置」の4つがあります。

■市場連動型の導入支援(FIP制度の創設)

法改正の背景には、FIT制度が始まった2012年から、再生可能エネルギーの導入拡大が進んでいることがあります。総発電電力量の電源構成で再生可能エネルギーが占める割合は、17%となっており、2030年度のエネルギーミックス(エネルギー需給構造のあるべき姿を示したもの)では、22~24%まで導入を進めるとしています。この目標を達成するには、更なる導入拡大による再生可能エネルギーの主力電源化の促進が必要です。

しかし、再生可能エネルギーの主力電源化には、再エネ賦課金を支払う電気利用者の負担が大きくなっている等の様々な課題があります。再生可能エネルギーの主力電源化のためには、火力や原子力など他の電源と同じように、電力市場の価格と連動した発電をおこなっていく必要があり、再生可能エネルギーを電力市場へ統合するための段階的な措置としてFIT制度に加えて定められたのが「FIP制度」です。

FIP制度とは、「フィードインプレミアム(Feed in Premium)」の略で、再生可能エネルギーで発電した電力を卸市場などで自由に販売させ、そこで得られる売電収入に一定のプレミアム(補助額)を上乗せする制度です。プレミアム分は電気使用者から徴収する賦課金で賄われますが、FIT制度と比べると比較的少ない金額に抑えることができます。

とはいえ、FIP制度は最初から全ての再生可能エネルギーを対象としているわけではありません。まずは、大規模な太陽光発電や風力発電といった、市場への統合による効果が期待される電源が対象となる予定です。FIP制度の対象範囲の拡大やタイミングについては、導入状況等を踏まえつつ、審議、決定されることになります。

FIT制度・FIP制度・再エネ賦課金について詳しくはこちら

(出典:「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ⑤再エネの利用促進にむけた新たな制度とは?|資源エネルギー庁)

(出典:日本のエネルギー2020|資源エネルギー庁)

(出典:エネルギー供給強靭化法案について|経済産業省)

■再エネポテンシャルを生かす系統整備

電力系統とは、発電や送電、変電や配電のために使用する電力設備等によって構成されたシステム全体を指します。系統の容量(流すことができる電力の量)には、上限があり、再生可能エネルギー由来の電源がFIT制度やFIP制度の効果で今後大量に入ってくると、現在の電力系統では容量が足りず、せっかく導入が進んでも使えなくなってしまいます。

また、再生可能エネルギーが特に進んだ地域では、再生可能エネルギー由来の電気の供給が需要を上回り、余剰電力となるケースもあります。その際、余った電力を他のエリアに融通できればいいですが、現状の日本の電力需給バランスの管理は、基本的にエリアごとで行われているため、隣接した他のエリアと電力系統は繋がっているものの、地域をまたいで流すことのできる電気の量は限られています。今回の電気事業法の改正では、異なる地域間でも十分な電気を流せるような仕組みをつくり、再生可能エネルギーのポテンシャルを全国で生かすことを掲げていますが、こうした送電網の増強には多額のコストが掛かります。

そこで、今回の再エネ特措法の改正では再生可能エネルギーの導入拡大に必要な地域間連携線等の送電網の増強費用の一部を、賦課金方式によって全国で支える制度が創設されました。
具体的には、送電網の増強によって再生可能エネルギーの利用が促進され、「電力価格の低下」と「CO₂の排出削減」の効果がもたらされる場合、その便益分に相当する費用については電気料金の一部として全国で均等に支える仕組みになっています。

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(出典:「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ⑥再エネのポテンシャルを全国規模で生かすために|資源エネルギー庁)

(出典:エネルギー供給強靭化法案について|経済産業省)

■再エネ発電設備の適切な破棄

再生可能エネルギーを主力電源化していくにあたっては、発電事業者が事業規律を遵守し、地域と共生していく必要があります。その一つとして、太陽光パネルなど、太陽光発電設備を適切に破棄することが課題となっています。

従来は、再生可能エネルギーの買取価格に破棄費用も組み込まれていました。しかし、その廃棄費用の積立ての水準や時期は各事業者の判断に委ねられていたため、事業実施主体の変更も行われやすい太陽光発電については、廃棄するまでにその費用が確保されるのかといった懸念の声があがっていました。
そこで、今回の改正では事業用太陽光発電事業者に、廃棄費用の外部積立を原則義務化しました。これによって、たとえば転売によって事業者が変わったとしても、廃棄時まで費用が保全され、適切な廃棄に繋がります。

対象 10kW以上すべての太陽光発電の認定要件
(10kW未満は対象外)
方式

源泉徴収的な外部積立
※例外的に内部積立を許可
(長期安定発電の責任・能力、確実な資金確保)

金額

調達価格の算定において想定してきている廃棄等費用の水準

時期

調達期間の終了前10年間

取戻し条件

廃棄処理が確実に見込まれる資料の提出

(出典:「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ⑥再エネのポテンシャルを全国規模で生かすために|資源エネルギー庁)

(出典:エネルギー供給強靭化法案について|経済産業省)

■長期未稼働の場合、認定を失効する措置

「再エネポテンシャルを生かす系統整備」の法改正で系統整備を進めるとともに、今ある系統についても、より効率的な活用をはかっていくための施策が進められています。
実際、FIT制度の普及に伴いFIT認定を既に受けているにも関わらず、長年未稼働になっている再生可能エネルギー電源があります。電力系統への接続は申し込み順で決まるのですが、未稼働案件に電力系統の接続権がおさえられていると、実際には、系統の容量自体に空きがあるにもかかわらず、新規事業者が系統を利用できないということが起こり、問題となっています。
このような問題と、系統が有効活用されない状況を是正するため、改正法では認定後一定期間内に運転開始しない場合、当該認定を失効するとしました。

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(出典:「法制度」の観点から考える、電力のレジリエンス ⑥再エネのポテンシャルを全国規模で生かすために|資源エネルギー庁)

(出典:エネルギー供給強靭化法案について|経済産業省)

JOGMEC法の改正ポイント


JOGMEC法(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法)は、海外での資源開発を担う独立行政法人石油天然ガス・金属機構について、その役割や事業内容等を定めた法律です。
電気事業法の改正とも重なる部分はありますが、JOGMEC法の改正には、「緊急時の発電用燃料調達」「燃料等の安定供給の確保」の2つのポイントがあります。

■緊急時の発電用燃料調達

地震や災害などの有事に、民間企業による発電用燃料の調達が困難な場合、電気事業法に基づく経済産業大臣の要請の下、JOGMECによる調達を可能にしました。
これにより、災害時に電力インフラが被災した地域においても、復旧作業の効率化に繋がります。

■燃料等の安定供給の確保

世界各国におけるLNG事業への日本企業の参画を一層拡大し、燃料などの安定供給を確保するために、海外におけるLNGの積替基地・貯蔵基地を、JOGMECの出資・債務保証業務の対象に追加しました。
また、金属鉱物の海外における採掘・製錬事業に必要な資金について、JOGMECの出資・債務保証業務の対象範囲を拡大しました。これにより、JOGMECによる出資制度の活用が可能となります。

(出典:エネルギー供給強靭化法案について|経済産業省)

(出典:法改正による JOGMEC の業務追加について|JOGMEC)

まとめ


2回にわたり、エネルギー供給強靭化法、日本の電力インフラ・システムが抱える課題、改正のポイントについてご紹介しました。IoTやデータ分析の技術の高まりに伴い、自然災害はある程度予期できるようになってきたものの、実際のインフラや送配電網設備等は地域によっては従来のまま再構築がなされていないところもあると思います。
エネルギー供給強靭化法によって、全国でさらに強力で持続的な電気の供給体制の構築が促進されることを期待します。

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