将来導入が検討されている「カーボンプライシング」について理解する

ビジネス関連
2021年6月14日

2050年カーボンニュートラル に向けた取り組みの一つとして、政府は「カーボンプライシング」の導入を検討しています。そもそも「カーボンプライシング」とは何か?導入された場合にどのような影響があるのかご紹介いたします。

目次

【目次】

カーボンプライシングとは

■炭素税

■排出量取引制度

■クレジット取引

海外の導入状況

日本に導入された場合のメリット・デメリット

■メリット

■デメリット

まとめ

※この記事は、2021年6月14日に公開した記事ですが、文言やデータ、その他の部分も追記‧更新して2022年6月23日に再度公開しました。

カーボンプライシングとは


カーボンプライシングとは、「炭素への価格付け」と訳され、その名の通り排出されるCO₂(二酸化炭素:カーボン)に価格付け(プライシング)する温暖化対策の一つです。 CO₂の排出量に比例した課税を企業や家庭に対して行うことで、CO₂排出のより少ない行動を促す目的があります。
カーボンプライシングには、代表的な制度として「炭素税」と「排出量取引制度」があります。

(出典:カーボンプライシング(炭素への価格付け)の全体像|環境省)

■炭素税

炭素税とは、燃料・電気の利用(=CO₂の排出)に対して、その量に比例した課税を行うことで炭素に価格をつける仕組みです。
炭素税の導入によって、あらゆる主体(企業・家庭)が化石燃料などCO₂の排出を伴うエネルギーの使用を避けるなどの行動変容を促す効果が期待できます。
また、税率を設定することで安定した価格シグナルが発出され、脱炭素化に取り組むインセンティブや投資に必要な予見可能性を確保することができます。
一方で、削減量を確実に担保することが難しかったり、税負担に対する企業や家庭の理解をどこまで得られるのかなど課題もあげられます。

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(出典:炭素税について|環境省)

(出典:カーボンプライシング(炭素への価格付け)の全体像|環境省)

■排出量取引制度

排出量取引制度とは、企業ごとに排出量の上限を決め、「排出量」が上限を超過する企業と下回る企業との間で「排出量」を売買する仕組みです。炭素の価格は「排出量」の需要と供給によって決まります。しかしこの制度は、単純に排出量を規制するのではなく、中長期的な排出削減に向け、努力した企業ほどメリットがある仕組みになって います。 日本では2010年から東京都が、2011年から埼玉県がこの制度を導入しています。

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キャップアンドトレード制度とは?メリットと国内の実施状況

(出典:カーボンプライシング(炭素への価格付け)の全体像|環境省)

■クレジット取引

クレジット取引とは、森林経営や省エネ機器の導入、CO₂などの温室効果ガスの削減量や吸収量を国が認証する制度です。
CO₂などの温室効果ガスは目には見えないので、削減量や吸収量を可視化して「クレジット」として発行します。
クレジットは他社や地方自治体などに販売することができるため、ビジネスとして売却益が期待できるメリットもあると同時に、企業が自社の排出量の削減が難しい場合にクレジットを購入・利用する事で、排出をオフセット(相殺)もできます。
クレジット市場は国際機関や政府・自治体、民間事業者によるものなどがあり、多種多様な制度があります。ここでは4つ紹介していきます。

・非化石価値取引
非化石価値取引とは、非化石電源(再生可能エネルギーや原子力)に由来する電気の非化石価値を証明書化して取引するものです。
非化石電源からの調達機会が限られていた新規参入者にとっても、非化石価値証明書を購入することで目標達成が可能になります。
2018年5月よりFIT電源に由来する非化石価値証明の取引が行われており、2020年4月からはFIT以外の非化石価値(大型水力、原子力など)も含め、全非化石電源に由来する非化石価値証明が証書化されています。

0621.jpg非化石価値取引市場は小売電気事業者の高度化法上の目標達成の後押しだけでなく、需要家の選択肢の拡大やFIT証書の売上を再エネ賦課金へ補填することで国民負担を軽減し、非化石電源への投資を促すために設立されました。取引市場の開設以降、非化石価値の取引量は上昇傾向にありますが、一方で国際的な非化石価値の取引市場に比べて価格が高いことや、非化石証書に「どこのどんな発電所で発電された電気なのかがわかる情報(トラッキング情報)」が無ければRE100などの環境イニシアチブに活用できないなど、制約になっている部分があります。

関連コラム
「環境価値を取引する3種類の証書(Jクレジット制度・非化石証書・グリーン電力証書)とは?活用方法についてご紹介します。」

・Jクレジット
Jクレジットとは、CO₂など温室効果ガスの削減量や吸収量に応じて国から発行される「クレジット」のことです。2013年度より国内クレジット制度とJ-VER制度が一本化され、現在は経済産業省・環境省・農林水産省によって運営されています。

適切な森林管理や省エネ設備、再エネの導入などにより、CO₂や温室効果ガスの削減に取り組む企業や自治体は「Jクレジット創出者」と呼ばれます。自社の取り組みが国に認められた場合はJクレジットが発行され、環境問題への取り組みに積極的な企業であることを外部にアピールできたり、他社へ売却することによる利益創出など様々なメリットが期待できます。

逆にJクレジットの購入者は、温対法や省エネ法、各環境イニシアチブへの報告に活用できるほか、自社の製品、サービスに係るCO₂量をオフセットすることで、他社との差別化にも繋がります。

Jクレジットについて詳しくはこちら

・二国間クレジット制度
二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism、JCM)(以下、JCM)は、日本の低炭素技術や製品・インフラなどを発展途上国へ提供して温室効果ガスの削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う制度です。

この制度の特徴は、クレジットで自社の温室効果ガスの排出量を抑制できることと、日本だけでなく世界の脱炭素を推進できる点にあります。
これまでにアジア・アフリカ・島諸国、中南米および中東の17か国と署名しパートナー関係にあります。

関連コラム
「二国間クレジット制度とは?温暖化対策で注目されている理由

・ゼロエミッション車クレジット取引
ゼロエミッション車クレジット取引とは、販売するゼロエミッション車(ZEV)をクレジット化し、自動車メーカーに対して一定比率のクレジットの取得を求める取引のことです。
自動車については、2030年中に新車販売は電動車のみにするという目標が政府によって設定されています。この目標達成を促すため、電動車などのゼロエミッション車の製造に出遅れたメーカーは他社のクレジットを購入して埋め合わせができる仕組みになっています。
この仕組みはアメリカのカリフォルニア州のモデルが参考にされており、そのアメリカでは現在10州でゼロエミッション車クレジット取引が実施されています。
クレジット超過分は翌年へ繰り越したり、他社へ販売できますが、不足分は他社から購入するか罰金を支払う制度になっています。

・(出典:Jクレジット制度)
・(出典:世界で導入が進むカーボンプライシング(後編)拡大するボランタリークレジット市場|JETRO)
・(出典:非化石価値取引市場について|資源エネルギー庁)
・(出典:クレジット取引について|資源エネルギー庁)

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海外の導入状況


日本全体としてはまだ導入されていないカーボンプライシングですが 、世界全体では2022年4月時点で合計68のカーボンプライシングが導入されており、更に追加で3つの導入が進められています。その内訳は炭素税が37、排出量取引制度が34となっています。
また、炭素税を導入している国の多くは、経済成長を実現しつつその政策の目的であるCO₂排出の削減を達成し、環境と経済のデカップリングを実現しています。 例えばカナダのブリティッシュ・コロンビア(BC)州では、炭素税を導入した2008年以降、他州より年平均約5.0%ずつ燃料消費量が減少しました。また、2008年から2011年にかけてGHG排出量を約10%削減することができ、同時期の他州の削減量と比較して約8.9%高い数字を実現しました。
一方で、BC州のGDPは、2008年から2011年にかけて他州とほぼ同様に推移し、
期間全体ではわずかに他州を上回ったことから、環境と経済のデカップリングに成功した事例となりました。

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(出典:カーボンプライシングの効果・影響|環境省)
(出典:State and Trends of Carbon Pricing 2022| The world bank)

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日本に導入された場合のメリット・デメリット


実際にカーボンプライシングが導入された場合、企業にとってどのような影響が出てくるのでしょうか?メリット、デメリットを紹介します。

■メリット

1つ目が、BC州の例にあるように、更なるCO₂排出削減効果が期待できることです。 CO₂排出量の削減においては、すべての国民が何らかの形でかかわっていることから、個別の規制より、炭素税のような広く国民に削減を促す方法の方が有効とされています。
2つ目が、省エネルギー設備や技術を持つ企業にとっては大きな商機になる可能性が高くなります。また、産業構造や経済社会の変革によって、企業全体の経済に成長に繋がる可能性があります 。

■デメリット

もちろん、導入によるデメリットもあります。
例えば、民間企業の投資・研究資金が奪われる、エネルギーコストの上昇により日本の産業の国際競争力に悪影響を与えうる、などといった可能性があります。
しかし、国際競争にさらされる一部の産業に対する免税措置や、より省エネに取り組んでいる事業者には軽減措置が提案されるなど、 導入された場合の措置や支援制度も同時に検討されています。

(出典:カーボンプライシング(炭素への価格付け)の全体像|環境省)

まとめ


脱炭素社会に向けてカーボンプライシングは非常に重要な施策ではありますが、経済の成長とのバランスを取りながら進めなければなりません。
企業にはこれからの導入の判断を慎重に見つつ、対応することが求められるかと思います。カーボンプライシングの導入議論によって、全国的にさらに脱炭素社会へ向けての取り組みが促進されることを期待します。

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