炭素税導入の議論が活発化
2023年度の税制改正の焦点に
炭素税とは、価格効果による二酸化炭素の排出抑制を目的とし、エネルギーの二酸化炭素含有量あたり一定額の課税を行う制度です。
1990年にフィンランド、ポーランドで導入されたのを皮切りに、欧州を中心に導入が進みました。日本は、2012年に「地球温暖化対策のための税(温対税)」として炭素税を導入しており、二酸化炭素換算で1トン当たり289円が原油、天然ガス、石炭などの化石燃料の購入時に課税されています。ただ、ヨーロッパには1トン当たり1万円を超える国もあり、日本は各国と比べても低い課税額となっています。
その後も、地球温暖化対策は世界で進められています。国連は2015年に持続的な開発目標であるSDGを宣言し、2030年に達成すべき17の具体的な目標を立てました。目標の中にはエネルギーをクリーンにすることや、気候変動に対する対策なども盛り込まれており、各国は目標達成に向けて取り組みを進めています。
また日本政府も、2050年にカーボンニュートラルを目指すことを2020年10月に宣言しました。しかし、現状では二酸化炭素排出量の削減は、目標達成には不十分な状態が続いています。産業界からも慎重な意見が根強く、炭素税の本格導入は進んできませんでした。
そこで環境省では、企業の二酸化炭素排出量を削減することを目的に、炭素税の本格導入を税制改正で要望しています。2021年8月には当時の小泉進次郎環境大臣が記者会見で表明。炭素税の他、石油会社などが払っている石油石炭税の税率についても見直しが必要との認識を示しました。2022年8月にも環境省は2023年度の税制改正で速やかに結論を得ることを求めました。
以上の経緯から、現時点で税率などの具体的な制度設計は示されていないものの、炭素税の本格導入は2023年度の税制改正の焦点になっています。政府が検討している20兆円規模のGX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債の財源確保や、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出に値付けするカーボンプライシングとあわせて、今後議論が活発化するものと見られています。
(出典:海外の炭素税・排出量取引事例と我が国への示唆|一般財団法人 日本エネルギー経済研究所)
(出典:環境省ホームページ 『小泉大臣記者会見録(令和3年8月31日)』ほか)
炭素税はなぜ必要か
炭素税はそもそも、政府によるカーボンプライシング(二酸化炭素排出に対する価格付けを通じて排出者の行動を変容させる経済的な政策手法)の中の制度の1つです。
政府によるカーボンプライシングには、政府が二酸化炭素の排出を伴うエネルギー利用に対して一定の金銭的コストを課す、「明示的カーボンプライシング」と、政府が二酸化炭素排出削減対策やエネルギー対策を促す政策手法のうち、課税措置等以外の政策手法である「暗示的カーボンプライシング」に分かれます。炭素税や排出量取引制度は、前者の「明示的カーボンプライシング」に含まれ、暗示的カーボンプライシングには、省エネ法・高度化法、低炭素社会実行計画、固定価格買取制度(FIT)等が含まれます。
日本と海外の炭素税の現状
炭素税の税率が日本の温対税の50倍以上の国も
海外ではヨーロッパを中心に、1990年代から炭素税を導入する国が出てきました。世界で初めて導入したのはフィンランドで、スウェーデン 、デンマークが続き、2010年代にはアイルランドやフランスでも導入されています。
その中でも、日本の温対税の50倍以上の税率が課されているのがスウェーデンです。スウェーデンの事例と、その取り組みから日本が学べることをご紹介します。
スウェーデンでは、1980年代後半から「所得税の限界税率を大幅に削減すること」を主な目的として大規模な税制改革が計画され、炭素税の導入が提案されました。実際に炭素税の導入が開始されたのは、1991年で、課税対象は「石油」「石炭」「天然ガス」、対象分野は「運輸」「民生」とされました。
また、軽減措置として、製鉄プロセス、電力の生産における消費は免税とし、またEUにおける排出権取引制度(EU-ETS)の対象となっている部門での製造プロセスは100%還付の対象とされました。
スウェーデンは、豊富な水力に恵まれていることや、原子力発電が継続されている等の理由から安価な電力価格を達成しており、炭素税やETS導入以前より低炭素電源率は高い傾向にありました。このため、高率な炭素税を導入しても負担は限定的でした。
また、豊富な森林を背景とした林業の発展や、これに伴う安価なバイオマス燃料に恵まれていること、バイオマス発電所のボイラーに対しては補助金が充当されていることもあり、補助金とカーボンプライシングの組み合わせはバイオマス利用の促進に大きく寄与しました。
スウェーデンの事例から分かることは、カーボンプライシング導入の受容性は、自国のエネルギー需給構造、代替エネルギーのポテンシャル、社会経済の在り方等に影響を受けるということです。
日本に置き換えると、日本にも安価で安定的な低炭素エネルギーの供給ポテンシャルがあれば、炭素税などのカーボンプライシングが代替を促進する可能性は十分にあります、しかし一方で、ポテンシャルがない場合は、消費者への負担だけが大きくなる可能性があります。
(出典:海外の炭素税・排出量取引事例と我が国への示唆|一般財団法人 日本エネルギー経済研究所)
日本の地球温暖化対策税とは
一方で、日本は炭素税と排出量取引についてどのような取組を行っているのでしょうか。
先にも述べた通り、日本では2012年から「地球温暖化対策のための税(温対税)」として炭素税を導入しています。急激な負担増を避けるため、実際は導入から段階的に施行され、2016年4月1日に導入当初に予定されていた最終税率への引き上げが完了しました。
具体的には、化石燃料ごとの二酸化炭素排出原単位を用いて、それぞれの税負担が二酸化炭素排出量1トン当たり289円に等しくなるよう、単位量(キロリットル又はトン)当たりの税率を設定しています。
また、温対税は全化石燃料を課税対象としている現行の石油石炭税の微税スキームを活用し、石油石炭税に上記の税率を上乗せするかたちで課税されます。
このように、日本では「炭素税」という名称ではないものの、それに代わる温対税が導入されていますが、二酸化炭素排出量1トンあたり289円の税率は、諸外国と比べると低く、今後再検討される可能性もあり得ます。しかしながら、現段階で具体的な導入の目途がたっていないのは、少なからず炭素税の導入が産業界に影響を与えるという点を考慮している背景があるのかもしれません。
日本の炭素税導入のメリットとデメリットは
二酸化炭素排出量削減への効果
次に、日本での炭素税導入の議論について見ていきます。基本的な考え方は、税率設定を通じた「価格」によってCO₂排出量を抑制することです。価格は政府が決定し、総排出量の削減は事業者に依存します。行政がメリットを主張する一方で、産業界からはデメリットを指摘する声があがっています。
行政としてのメリットは、輸入段階など上流で課税した場合、電気料金やガソリン価格等に価格転嫁されるため、二酸化炭素の排出源を広くカバーできることです。既存税制を活用することで、行政の執行コストが低く済み、税収によって安定的な財源の確保も見込まれます。
炭素税導入における課題一方、炭素税の新規導入については次のような課題も挙げられています。新たに課税されることで、企業が投資に回すことができる金が減ってしまうこと。エネルギー価格のさらなる高騰で国際競争力の低下を招くこと。炭素税を導入したからといって、二酸化炭素の削減効果が必ずしも担保されないことなどです。
また、炭素税は、光熱費などのコストが上昇し、所得によって個人の負担に差が出てしまうなどの国民生活に影響を与えてしまう懸念もあります。
脱炭素の取り組みは急務
炭素税の本格導入をめぐる日本の議論や、海外の現状などについて見てきました。国連による2015年のSDGs宣言や、政府が2020年に表明した2050年のカーボンニュートラルの達成のためには、日本にとって脱炭素の取り組みは急務です。その一つである炭素税の本格導入の議論には、国民的な議論が必要だと言えそうです。
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