※この記事は、2021年11月19日に公開した記事ですが、文言やデータ、その他の部分も追記‧更新して2022年6月23日に公開し、さらに2023年5月23日に追記・更新しました。
なぜ中小企業も脱炭素の取り組みが必要なのか?
中小企業も脱炭素の取り組みが必要な背景
中小企業にも脱炭素が求められている背景には様々な理由がありますが、ここでは「パリ協定」「ESG投資の拡大」「サプライチェーン全体の脱炭素化」の3つを挙げたいと思います。
パリ協定は、2016年に発効された2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みです。産業革命後の気温上昇を、2度を十分に下回るように抑え、1.5度までに制限する努力を追求することを目標として掲げており、日本を含む190以上の国と地域が締結・参加しています。最近では離脱していたアメリカが、政権交代によって2021年2月に正式に復帰したことでも話題となりました。
パリ協定以降、今までの温室効果ガスの排出量を抑える「低炭素化」から、温室効果ガス排出量ゼロを目指す「脱炭素化」へ世界的に潮流が変わったことで、脱炭素の流れが一気に加速しました。
また、日本は2020年10月に当時の首相だった菅総理が、日本の温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロ(カーボンニュートラル)にする、脱炭素社会の実現を宣言しました。
これにより、企業にも脱炭素を取り入れた事業運営が求められるようになり、大企業のみならず日本企業の大多数を占める中小企業にも取組が求められています。
パリ協定について詳しくはこちら
(出典:脱炭素社会に向けた潮流と企業・地域の価値向上について|環境省)
次に、「ESG投資の拡大」です。取り組むべきは、自社だけに限りません。企業を取り巻く多くのステークホルダーもまた、脱炭素や気候変動に強い関心を示しています。
ESG投資とは、従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指します。
企業にとって、投資家は大きな影響力がありますが、投資家もまた自分の投資する企業が脱炭素に取り組んでいるかどうかは今後投資を続けていくかどうかの判断材料として重要視しています。
実際、投資家に対してESG 情報を考慮した投資行動を求める PRI へ署名する投資家・金融機関は2021年現在で3,826にのぼります。2006 年の発足から、60倍以上も拡大しており、ESG投資も今後一層の拡大が予測されています。
また近年、金融業界においても環境への取組を重視する動きが増しており、それに伴い融資先の企業に対してESG要因を考慮し、情報開示を求めるケースが増えています。
金融機関の中には自社でESGやSDGs経営を掲げている場合もあり、企業へ融資する際に、その企業が非上場の中小企業であった場合も情報開示を求める可能性があります。影響の大きさはまだ限定的とはいえ、将来ESG考慮がなされていなかったり、取組自体が不十分な企業は、中小企業も含め長期的な銀行融資を受けにくくなったりする可能性も無いとは言えません。
この流れは、地域金融機関でも加速しています。2019年に環境省で行われた「ESG地域金融の先行事例調査に関する検討会」では、地域金融機関はESG要素を考慮して取引先を支援し、事業価値向上や地域活性化を図ることが提言され、ESG地域金融の普及を促進しています。
ESG地域金融は、ESG要素を考慮した「案件組成」「評価」「モニタリング」を通じて、地域の核として地域の持続可能性の向上に資するESG地域金融の実践が期待されているようです。
(出典:事例から学ぶESG地域金融のあり方-ESG地域金融の普及に向けて-|環境省)
サプライチェーンの脱炭素化が中小企業にも影響
先ほどのステークホルダーの関心に付随して、自社だけでなく、サプライチェーンにも脱炭素を求める動きがグローバル企業を中心に増えています。なかには、再エネ利用や環境に配慮した事業運営を取引条件の一つにする企業もあり、取引を続けるために脱炭素への取り組みが必要になります。
例えばApple(米)は、サプライヤーも含めて再エネ100%の製造を目指しており、サプライヤーである日本企業はCO₂排出量の大幅削減を宣言しています。
近年は、グローバル企業のみならず、日本企業でもこの動きは活発化しており、大企業だけでなく中小企業も含めいち早く対応することで、競争力の強化に繋がります。
(出典:脱炭素社会に向けた潮流と企業・地域の価値向上について|環境省)
中小企業の脱炭素への取り組みがもたらすメリット
中小企業の脱炭素への取り組みに関するアンケート調査
日本政策金融公庫総合研究所は、「中小企業の脱炭素への取り組みに関する調査」を実施し、2023年1月に調査結果を発表しました。調査の対象となったのは従業員数5人以上299人以下の中小企業で、インターネットによるアンケート調査に1666社が回答しました。
現在温室効果ガスの削減につながる取り組みを実施しているかどうかを聞いた質問には、「大いに実施している」と答えた割合が6.2 %、「ある程度実施している」が38 .7%でした。あわせて44.9%の企業が実施していることになります。「ほとんど実施していない」と答えたのは55.1%でした。
業種別の取り組み状況では、卸売業が53.9%で最も高く、製造業の49.5%、小売業の48.1%が続いています。事業の規模が大きい企業ほど、取り組みが進んでいる傾向が見られました。
また、興味深いのは、温室効果ガスの削減につながる取り組みに積極的な企業ほど、業況が良いと答えていることです。「大いに実施している」と答えた企業で、業況が「良い」と答えた割合が28.8%だったのに対し、「ある程度実施している」企業で「良い」と答えたのは9.7%、「ほとんど実施していない」企業では8.0%にとどまりました。脱炭素に取り組むことによって、経営面でもプラスにつながっている傾向があると言えそうです。
脱炭素の取り組みによる中小企業のメリット
中小企業が脱炭素経営を行うメリットには、以下のようなものがあります。
まず、優位性の構築です。SBTやRE100加盟企業など、環境意識の高い企業を中心に、サプライヤーに対して排出量の削減を求める傾向が強まりつつあります。脱炭素経営を実践することで、このような企業に対する訴求力に繋がり、自社の競争力強化、売上の拡大に繋がります。
※イメージ
次に、光熱費や燃料費が低減できることです。脱炭素経営を行う上で必要なのが、エネルギーを多く消費する非効率なプロセスの見直しと設備の更新です。国内の中小企業の事例では、省エネ推進等を行う財団法人が実施している無料の省エネ診断や国の補助金などを活用して、省エネ設備を導入した結果、光熱費・燃料費の低減に成功した事例もあり、一般的には費用が高くなると思われがちな再エネ電力の調達についても、大きな負担なく実施しているケースもあります。
さらに、認知度が向上するメリットもあります。省エネに取り組み、大幅な温室効果ガス排出量削減を達成した企業や再エネ導入を先駆的に進めた企業は、メディアへの掲載や国・自治体からの表彰対象となることがあります。
このような活用を通じて外部への露出を積み上げることで、自社の知名度・認知度の向上に繋がります。
また、大幅な省エネ対策の実施によって光熱費を大幅に削減できたことにより、利益を出しにくい多品種少量生産の製品であっても積極的に生産・拡販できるようになり、副次効果として顧客層への浸透が期待されるケースもあります。
メリットはその他にも挙げられます。ひとつは、社員のモチベーションが向上し、新しい人材が獲得できることです。気候変動などの社会課題解決に対して取り組む姿勢を示すことで、社員の共感や信頼を獲得し、しいては社員のモチベーション向上に繋がります。また、脱炭素経営に向けた取組は、気候変動問題への関心の高い人材から共感・評価され、「この会社で働きたい」と意欲を持った人材を集める効果が期待されます。
また、新規ビジネスの創出に向けた資金調達に有利に働くというメリットも考えられます。各金融機関では、融資先の選定基準に地球温暖化への取組状況を加味し、脱炭素経営を進める企業への融資条件を優遇する取組が行われています。
実際、温室効果ガス排出量の削減や再生可能エネルギーの生産量または使用量等に関する目標の達成状況に応じて貸出金利が変動するローンのプランを提供している銀行もあります。
(出典:中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック|環境省)
中小企業による脱炭素経営の取り組みのポイント
中小企業の脱炭素について基本的な考え方と計画策定の手順
では、実際に中小企業が脱炭素経営に取り組むには、どのような手順を踏めば良いのでしょうか。ここでは、環境省が発行している「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック」を参照しながら、基本的な考え方と具体的な計画に落とし込むための6つのステップをご紹介します。
まずは、基本的な考え方です。中小企業が脱炭素経営に取り組む際の基本的な考え方として、「温室効果ガス大幅削減」が挙げられます。ここについて環境省では以下3つの方向性を挙げています。
① 可能な限り、エネルギー消費量を削減する(省エネを進める)
例)高効率の照明・空調・熱源機器の利用等
② エネルギーの低炭素化を進める
例)太陽光・風力・バイオマス等の再エネ発電設備の利用、CCS(二酸化炭素回収・貯留技術)付き火力発電の利用、太陽熱温水器・バイオマスボイラーの利用等
③ 電化を促進する(熱より電力の方が低炭素化しやすいため)
例)電気自動車の利用、暖房・給湯のヒートポンプ利用等
これら3つの方向性を具体的な計画に落とし込むためには、単純に運用改善等の省エネ対策を行うだけでは難しく、再エネ電気やバイオマス、水素といった温室効果ガス排出の少ないエネルギーを利用できる可能性を模索する必要があります。
次に、具体的な計画策定の検討手順を、6STEPで見ていきます。
ステップ1:長期的なエネルギー転換の方針の検討
ステップ1では、都市ガスや重油などを利用している主要設備がないかを振り返り、これらを電化・バイオマス・水素等へ燃料転換する等、長期的なエネルギー転換の方針を検討します。
ステップ2:短中期的な省エネ対策の洗い出し
ステップ2では、ステップ1で検討したエネルギー転換の方針を前提に、これを補完する形で省エネ対策を検討します。ここまでのステップを通じて、自社の温室効果ガス削減余地を概ね把握することができます。
ステップ3:再生可能エネルギー電気の調達手段の検討
ステップ3では、温室効果ガス削減目標の達成に向けた再エネ電気調達の必要量を明確にするとともに、自社に適した再エネ電気の調達手段を検討します。
ステップ4:地域のステークホルダーとの連携
地域のステークホルダー(自治体や地域金融機関等)と連携して実現に向けて相談し、求められる投資額を概ね把握します。金利や保証料など優遇のある融資制度などが存在することもあるので、すでに取引関係のある金融機関への相談も重要となります。
ステップ5:削減対策の精査と計画への取りまとめ
対策の実施に必要な投資額が財務(キャッシュフロー)に及ぼす影響を分析しながら、最終的に実施する削減対策を精査し取りまとめます。
洗い出した削減対策によって目標達成は可能か、費用支出が許容できるかを検討します。
ステップ6:削減計画を基にした社内外との議論
削減計画が完成したら、社内外へ積極的に発信していきます。幅広いステークホルダーと認識を共有することで、より実効的な削減対策となることが期待できます。
(出典:中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック|環境省)
中小企業の脱炭素の取り組みに対する環境省の補助金一方で、環境省では脱炭素化に向けた取り組みを支援するための補助事業や委託事業も実施しています。補助金を活用することも、選択肢の一つになります。環境省のホームページに情報がまとめられていますので、ぜひ参照してみてください。
環境省ホームページ
「脱炭素化事業支援情報サイト(エネ特ポータル)」 https://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/enetoku/
脱炭素の取り組みにおける中小企業の事例
企業の脱炭素に関する取組状況
中小企業が脱炭素経営に取り組むべき理由の一つで上げたESG投資では、PRIに署名する投資家の数が増えているという話をしましたが、このPRIは、CDPが公開しているレポートなどを参考に投資を行っています。CDPは、企業の気候変動、⽔、森林に関する世界最⼤の情報開⽰プログラムを運営する英国で設⽴された国際NGOです。SBTやその他分析情報に関して世界9,600社のデータを有しており、ESG投資における基礎データとしての地位を確⽴していると言われています。CDPレポートは、SBTやその他の分析情報を参考に作成されています。
つまり、PRIに署名している機関からのESG投資を受け続けるためには、企業は最低限SBT等の評価項目に含まれる取り組みを行い、CDPレポートでの評価を下げないようにすることが重要になります。
また、SBTの他にも気候変動に関する企業の対応について情報開示を促すTCFDや、将来的なゼロカーボングリッドを推進するRE100等、企業が脱炭素経営に取り組むうえで活用できるイニシアティブは多く存在します。
それでは、TCFD・SBT・RE100に取り組む日本企業はどのくらいいるのでしょうか。
ご覧の通り、TCFDへの賛同を表明している日本企業数は世界第1位、SBT・RE100に認定・参加している日本企業はアジア第1位と世界トップクラスとなっています。(※2023年3月31日時点)
こうした企業の取組は、自らの企業価値の向上につながることが期待できるほか、気候変動の影響がますます顕在化しつつあるビジネス業界において、先んじて脱炭素経営の取組を進めることにより、他者と差別化を図ることができ、新たな取引先やビジネスチャンスの獲得に繋がります。
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脱炭素への取り組みを進める中小企業の事例
ここでは、脱炭素に取り組む中小企業の事例を3社ご紹介します。
・事例① 株式会社大川印刷(印刷事業、従業員数40名 ※2022年3月)
明治14年に創業した印刷会社で、SBT目標に取り組む過程で売上増とコスト低減を同時に達成し、多くのメリットを生み出しています。
2016年度に自社での燃料の使用や工業プロセスによる直接排出の温室効果ガスの排出量と、他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出のゼロを達成し、2018年度には環境省中小企業版2℃目標・RE100 の設定支援事業に選定されました。
省エネではLED UV印刷機への切り替えにより、消費電力の削減に努めています。自社工場の屋根には太陽光発電設備を設置し、それでも足りない需要は風力発電による電力を購入することで、2019年には本社工場全体の使用電力の再生可能エネルギー100%化を実現しています。
早くから脱炭素経営に取り組んだことでメディアに取り上げられるなど自社の認知拡大にも繋がり、結果的に売上高経常利益率を1.8%増加させることに成功しました。
・事例② 河田フェザー株式会社(羽毛の加工及び精毛・羽毛製品の販売、従業員数46名)
明治 24 年に創業した国内唯一の羽毛の専業メーカーである河田フェザー株式会社は、環境に配慮した工場を目指し、熱回収や電力削減、再エネ電気の利用を進めており、羽毛業界世界初となるSBTやRE100にも加盟しています。
具体的には、利用するボイラーを重油からLPガスにしたことにより年間66t-CO2の削減を達成しました。その他にも、地下水による水冷式エアコンを導入し、2022年4月からは工場の電気を再エネ100%の電気に切り替えています。これで電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出が674t-CO2程度、大幅に削減される見込みです。
・事例③ 株式会社エコ・プラン(業務用空調のメンテナンス・設置事業、従業員数344名 ※2022年4月)
2002年に設立された業務用空調のメンテナンス・設置、BEMS(ビル向けのエネルギー管理システム)や太陽光発電設備の設置工事を行う株式会社エコ・プランは、2019 年に脱炭素経営促進ネットワークの会員として参加し、同年 6 拠点を再生可能エネルギー100%電力に切り替えました。
同じく2019年に中小企業向けSBT・再エネ100%目標設定支援事業に採択され、2021年には会社の58%の拠点が再エネ 100%となっています。これは同社の温室効果ガスの直接・間接排出量全体の 20%に相当します。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
中小企業が脱炭素経営に取り組むべき理由として、
① パリ協定によって世界の脱炭素の流れが加速したこと
② PRI署名数の増加などから見られるように、ESG投資が主流になりつつある中、SBTやRE100等何らかの対策を先んじて打つことがビジネスを続ける上で重要になっていること
③サプライチェーン全体でも脱炭素が求められていること
を挙げました。
また、脱炭素経営に取り組む上での基本的な考え方と具体的な検討手順をステップ別にご紹介しました。
中小企業の脱炭素の取組はまだ先だという考えもあるかもしれませんが、そうしている間にも気候変動は進んでおり、それに伴うリスクも増えています。
すぐにでも取り組めることはたくさんありますので、興味を持っていただいた方は是非詳しく調べてみてください。
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