【目次】
第6次エネルギー基本計画のポイント
■エネルギー政策の基本視点(3E+S)
■「2050年カーボンニュートラル」を見据えた2030年に向けた政策対応
■2030年度における野心的なエネルギーミックスの見通し
これまでのエネルギー基本計画
■第1~3次計画
■第4次計画
■第5次計画
まとめ
エネルギー基本計画とは
日本のエネルギー政策の基本方針は、安全性(Safety)を大前提とした、自給率(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)の3E+Sの同時達成を目指すものとなっています。
「エネルギー基本計画」は、このようなエネルギー需給に関する政策について中長期的な基本方針を示した、いわば日本のエネルギーに関する全ての政策の土台となるものです。
基本計画は、「エネルギー政策基本法」に基づき、少なくとも3年ごとに見直され、必要に応じて変更、閣議決定を求めることが定められています。
2003年10月に初めての基本計画が閣議決定されて以降、5回に渡り計画の見直しがなされ、2021年9月までは2018年につくられた第5次エネルギー基本計画を方針として、政策が決定されていました。2021年10月に新たに「第6次エネルギー基本計画」が発表されたことで、今後はこの新しい基本計画を基に、エネルギーに関する政策が検討されます。
第6次エネルギー基本計画のポイント
では、今後のエネルギー政策の基となる「第6次エネルギー基本計画」はどのような内容になっているのでしょうか。ポイントは、大きく以下の2つです。
1. エネルギー政策の基本的視点(3E+S)
2. 昨年10月に表明された「2050年カーボンニュートラル」を見据えた2030年に向けた政策対応
■エネルギー政策の基本視点(3E+S)
エネルギーを取り巻く情勢は、日々めまぐるしく変化します。前回の第5次エネルギー基本計画の策定から3年の間にも、気候変動問題への更なる関心の高まりや、新型コロナウイルス感染症による生活様式の変化など、私たちの環境は大きく変わりつつあります。エネルギー政策は、「3E+S」の視点に加え、こうした変化から得られる教訓を踏まえた柔軟な対応が求められます。
具体的には新型コロナウイルス感染症による世界的な経済活動の停滞とその後の経済再開により原油価格が大きく変動するなど、エネルギー供給においてもサプライチェーン全体を見据えた安定供給の確保の重要性が再認識されました。
第6次エネルギー基本計画では、この3E+Sの大原則を以下のように整理しています。
安全性(Safety):
・あらゆるエネルギー関連設備の安全性は、エネルギー政策の大前提
・特に原子力については、いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、国民の懸念の解消に全力を挙げる
・将来の保安人材の不足、自然災害の頻発・激化、サイバー攻撃の複雑化なども踏まえ、原子力以外のエネルギー源についても、安全性確保への取組が必要
エネルギーの安定供給(Energy Security):
・日本は他国と比べエネルギー自給率が低い為世界の情勢にエネルギー供給が大きく左右されるリスクを抱えており、エネルギー安全保障の確保は引き続き大きな課題
・こうした課題を克服し、エネルギーの安定供給を確保するためには、レジリエンス(エネルギーの強靭性)を高め、多層的に構成されたエネルギーの供給体制が、平時・有事に適切に機能する仕組みづくりが重要
環境への適合(Environment):
・環境への適合は、カーボンニュートラルに向けた対応が世界的な潮流になっていることもあり、重要性が急激に増している
・エネルギー分野は日本の温室効果ガス排出量の8割以上を占めており、気候変動問題への取組においては特に重要
・エネルギーの脱炭素化には、EVや太陽光パネル、発電所建設のための建設機械など脱炭素化を支える鉱物の採掘から製造、運輸過程におけるサプライチェーン全体でのCO₂排出も考慮しながら取組を進める必要がある
・気候変動だけでなく、エネルギー関連設備の導入、運用、廃棄物の処理に際する周辺環境との調和や共生も重要な課題
経済効率性(Economic Efficiency):
・経済効率性の向上による低コストでのエネルギー供給とエネルギーの安定供給、環境負荷の低減を同時に実現することは、日本の更なる経済成長を実現する上での前提条件
・産業競争力の維持・強化、国民生活の向上を図りつつ、成長戦略としてカーボンニュートラルに取り組むためには、脱炭素技術の低コスト化のための研究開発、徹底した省エネ、AI・IoT等の新たな技術による発電所運転の効率化等により、エネルギーコストを可能な限り低下させることが不可欠
■「2050年カーボンニュートラル」を見据えた2030年に向けた政策対応
2020年10月に当時の菅首相によって宣言された「2050年カーボンニュートラル」達成に向けては、先ほどもお伝えした通り、日本の温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー分野の取組が重要です。しかしながら、日本の産業構造や自然条件などを踏まえても、その実現は容易なものではなく、官民一体となり総力を挙げた取組が必要となります。
電力部門は、再生可能エネルギーや原子力などの実用段階にある脱炭素電源を活用し、着実に脱炭素化を進めるとともに、水素やCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:分離・貯留したCO₂を再利用する仕組み)、カーボンリサイクルによる、炭素貯蔵・再利用を前提とした火力発電など新たなイノベーションの追求がポイントです。
特に再生可能エネルギーについては、3E+Sを大前提に、主力電源化を徹底し、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入を促すとしています。
再生可能エネルギーの導入拡大に向けた具体的な取組の例としては、以下のようなものがあります。
コスト低減・市場への統合:
・FIT・FIP制度の活用や中長期的な価格目標の設定
事業規律の強化:
・太陽光発電に特化した技術基準の着実な執行
・小型電源の事故報告の強化等による安全対策強化
・地域共生を円滑にするための条例策定の支援
系統制約の克服:
・連系線等の基幹系統の増強
・ノンファーム型接続※をローカル系統まで拡大
・系統利用ルールの見直し
※ノンファーム型接続:あらかじめ系統の容量を確保せず、系統の容量に空きがあるときにそれを活用し、再エネなどの新しい電源をつなぐ方法
規制の合理化:
・風力発電の導入円滑化に向けたアセスの適正化
・地熱の導入拡大に向けた規制の運用見直し
地域と共生する形での適地確保:
・改正温対法に基づくポジティブゾーニング(再エネ促進区域の設定)による、太陽光・陸上風力発電の導入拡大
・再エネ海域利用法に基づく洋上風力の案件形成加速
技術開発の推進:
・建物の側面や強度の弱い屋根にも設置可能な次世代太陽電池の研究開発・社会実装
・超臨界地熱資源の活用に向けた大深度堀削技術の開発
このように、第6次エネルギー基本計画においては、脱炭素化に向けた世界的な潮流、国際的なエネルギー安全保障における緊張感の高まりなどの第5次エネルギー基本計画策定時からのエネルギーをめぐる情勢変化や、日本のエネルギー需給構造が抱える様々な課題を踏まえた内容となっています。
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■2030年度における野心的なエネルギーミックスの見通し
上記の取組を踏まえ、徹底した省エネや再エネをはじめとする非化石エネルギーの拡大を進める上で、需要と供給両方で発生しうる課題を想定した場合に、どのようなエネルギー需給の見通しがなされているのでしょうか。
また、この野心的な見通しが達成された場合、エネルギー自給率や温室効果ガスの削減率など3Eの数値は旧ミックスと比べてどのくらいの変化が見込まれるのでしょうか。
① 野心的なエネルギーミックスの見通し
今回の見通しでは、エネルギーの安定供給に支障が出ないよう、施策の強度や施策実施のタイミングなど慎重に考慮することが重要視されています。
再エネなどの非化石エネルギーの導入が不十分なまま化石電源の抑制策を講じると、電力の安定供給に支障が生じる恐れがあるためです。
第6次基本計画では、旧エネルギーミックスと比較して、石炭などの化石電源の割合を緩やかに減少させつつ、再エネの割合を36%~38%(状況に応じて38%以上)にし、温室効果ガスの削減割合を46%、更には50%の高みを目指すことが明記されました。
② ①のエネルギーミックスの見通しが実現した場合の3E
第6次基本計画のエネルギーミックスの野心的な見通しが実現された場合、3Eは旧ミックスと比較して以下のように変化すると見込まれています。
・エネルギーの安定供給(Energy Security)
エネルギー自給率が、旧ミックス25%に対して、30%程度に増加
・環境への適合(Environment)
温室効果ガスの削減の目標のうちエネルギー起源CO₂の削減割合が、旧ミックス25%に対して45%程度に増加
・経済効率性(Economic Efficiency)
コストが低下した再エネの導入拡大やIEA(国際エネルギー機関)の見通し通りに化石燃料の価格が低下した場合の電力コストが、旧ミックス9.4~9.7円/kWhに対して、9.9~10.2円/kWh程度に増加
このように、第6次基本計画のエネルギーミックスが実現した場合は、エネルギー自給率の向上と、CO₂の更なる削減が見込まれる代わりに、電力コストは増加することが見込まれています。しかしながら、エネルギー自給率に関しては、資源自給率に加え、技術自給率※も向上させることが重要であるほか、世界銀行やEIA(米国エネルギー情報局)は、化石燃料の価格が高騰することを直近の見立てとして発表しているため、目標達成のためには状況に応じた柔軟な対応が引き続き求められます。
※技術自給率:国内のエネルギー消費に対して、自国技術で賄えているエネルギー供給の程度
これまでのエネルギー基本計画
では、これまでのエネルギー基本計画はどのような内容を辿ってきたのでしょうか。
簡潔にご紹介します。
■第1~3次計画
第1次から第3次までは、3E+Sの定義や、エネルギー需給に関し長期的、計画的に講ず為の施策、それに必要な事項など、エネルギー技術開発の意義や、国としてどう関与していくかなどについて中心に記載されています。第3次計画では、資源小国である日本の実情を踏まえ、2030年にエネルギー自給率と化石燃料の自主開発比率をそれぞれ倍増させることで、自主エネルギー比率を約70%(当時約38%)にし、電源構成に占める再生可能エネルギーや原子力の比率を約70%(当時34%)とする目標が明記されました。
■第4次計画
2014年4月に閣議決定された第4次計画は、中長期的に取り組むべき政策課題と、長期的、総合的かつ計画的な方針をまとめた内容となっています。第4次計画で特徴的なのが、東日本大震災や東京電力福島第一原子力発電所事故の発生などを踏まえた内容となっていることです。全5章からなる本計画では、エネルギー資源を海外に大きく依存していることや、新興国のエネルギー需要拡大等による資源価格の不安定化、世界の温室効果ガスの増大など日本のエネルギー需給構造が抱える課題を再確認しています。
また、東日本大震災、東電福島第一原子力発電所事故による重大な被害、及びその後顕在化した東西間の供給体制に関する課題や、石油・都市ガス供給体制における問題について分析しています。
■第5次計画
これらを経て2018年7月に閣議決定された第5次計画では、3E+Sの原則を発展させた「より高度な3E+S」を目指すため、大きく4つの目標が掲げられました。
1. 安全の革新を図ること
2. 資源自給率に加え、技術自給率とエネルギー選択の多様性を確保すること
3. 「脱炭素化」への挑戦
4. コスト抑制に加えて日本の産業競争力の強化につなげること
これらの方針の元、2030年のエネルギーの姿を示した「エネルギーミックス」を確実に実現するために、再生可能エネルギーのエネルギーミックス水準を電源構成比率22~24%にし、再エネの主力電源化への取組であったり、原子力発電の社会的信頼の回復、人材・技術・産業基盤の強化、安全性や経済性に優れた原子炉の追求などが記載されました。
石油や石炭などの化石燃料は、主力エネルギー源として必要ではあるため、資源外交を強化する一方で、よりクリーンなガス利用にシフトし、非効率的な石炭火力発電は徐々にフェードアウトさせるとしました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
東日本大震災及び東電福島第一原子力発電所事故から丁度10年の節目ということもあり、第6次エネルギー基本計画では、エネルギーの種類に関わらず、その「安全性」を重視する内容が多く見られました。
また、カーボンニュートラル実現に向けた取組も多く含まれており、エネルギー分野の改革は今後ますます注目を集めるでしょう。
カーボンニュートラルの動きはビジネスにおいても加速しつつあり、特に再生可能エネルギーについては、電気料金プランを再エネ100%のプランに切り替える企業や、それをステークホルダーから求められる事例も増えてきています。
政策だけでカーボンニュートラルを実現するのは容易ではなく、企業や事業者の積極的な取り組みは必要不可欠です。興味のある方は是非、詳しく調べてみてください。
(出典)
日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」|資源エネルギー庁
新しくなった「エネルギー基本計画」、2050年に向けたエネルギー政策とは?|資源エネルギー庁
これまでのエネルギー基本計画について|資源エネルギー庁
第3次エネルギー基本計画|資源エネルギー庁
第4次エネルギー基本計画|資源エネルギー庁
第6次エネルギー基本計画|資源エネルギー庁
エネルギー基本計画の概要|資源エネルギー庁
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