【目次】
2022年度夏季の電力供給見通し
昨冬から続く電力供給のひっ迫と電力価格の高騰
日本卸電力取引所(JEPX)での電力価格高騰の要因
■LNGの需要増と価格高騰
■石炭・原油も価格高騰傾向
■ウクライナ情勢の影響
今夏における節電要請
個人・企業ができること
まとめ
※この記事は、2021年1月25日に公開した記事ですが、文言やデータ、その他の部分も追記・更新して2022年7月21日に再度公開しました。
2022年度夏季の電力供給見通し
資源エネルギー庁は6月、2022年度夏季の電力需給に関して、電力の安定供給に最低限必要とされる予備率※は3%であるのに対して、東北・東京・中部エリアにおける7月の予備率は3.1%と、非常に厳しい見通しであると発表しました。
背景には、近年の脱炭素の流れによる再エネの導入拡大に伴う火力発電所の休廃止の増加、2022年3月に発生した福島県沖地震による発電所の稼働停止の長期化などが挙げられます。
また2022年度冬季においても、1月2月は全7エリアで予備率3%を確保できず、東京エリアに至っては予備率がマイナスになると試算されており、今夏よりも更に厳しい見通しが立てられています。
※電力予備率:電力需要に対して供給余力の余裕がどの程度あるかを示したもの。 電力需要は3%程度のぶれがあることから、安定供給には予備率3%が最低限必要とされています。
昨冬から続く電力供給のひっ迫と電力価格の高騰
電力需給のひっ迫は2020年度冬季から続いており、また電力の卸売取引市場であるJEPXでの電力価格の高騰も深刻な状況になりつつあります。一体、何があったのでしょうか。
2020年9月、気象庁によって、北日本では平均並みかそれより高い気温に、東・西日本と沖縄・奄美地方ではほぼ平年並みの気温になるという見通しが立てられていました。
また、電力予備率も最低限の余力が確保できていることが確認されていました。
しかし、2020年12月中旬、予想に反し強い寒波が日本に流入し、かつその寒波は2021年1月前半まで断続的に続きました。
この寒波により、暖房利用などによる電力需要が増加。
2020年12月中旬の電力需要は過去5年でも高い水準に達し、一部のエリアでは需給が厳しくなる時期も発生しました。
2020年12月下旬、需要がいったんは低下し例年並みとなり、その年の12月に九州電力の原子力発電が再稼働したことで、供給力も向上しました。
しかしながら、今度は関西電力の所有する発電所などの石炭火力発電がトラブルにより、停止してしまいます。
また、12月中旬の寒波到来時に燃料消費の増加で在庫量が減りつつあったLNGは、11月に発生した産出国の供給設備トラブルなども重なり、12月以降、在庫量の調達計画の値と実績に大幅な差が生じ始めます。
そこで政府は、これ以上LNG消費が加速しないよう、「燃料制約」を実施。つまり、火力発電の発電量を減らすなどして在庫水準を一定に保つ事が行われました。この影響で、電力市場(JEPX)では電力の「売り切れ」が常態化し、電力の卸売価格が高騰するきっかけとなりました。
これにより2020年12月下旬以降、スポット市場価格※は一時、最高250円/kWh、平均価格が150円/kWhを超えるまで高騰しました。
※スポット市場:JEPX(日本卸電力取引所)が開催する電力取引市場の1つ
※スポット市場価格:スポット市場で翌日に発電または販売する電気を前日までに入札し、約定された価格のこと。
今夏における節電要請
東日本大震災以降、電力使用量が増える夏と冬に向けて電力広域的運営推進機関において電力需給の検証が実施されています。
2022年度夏季の電力供給の厳しい見通しを受けて資源エネルギー庁では、国民生活や経済活動に支障のない範囲において、できる限りの節電を呼びかけていくと共に、具体的に以下の取り組みを実施するとしています。
・小売電気事業者への働きかけ
小売電気事業者に対し、供給力確保義務を含めた法令順守に万全を期す観点から、相対契約や先物市場を活用した供給力の確保ならびにリスクヘッジ、デマンドレスポンス契約の拡大等の検討要請。
・でんき予報の表示の見直し
電気使用率がリアルタイムに表示される一方、当日の供給力がわからないため誤解を招くことがあった。
当日の供給力の増加を反映することにより、 電気使用率の表示は最大100%とする見直しの実施。
・需給ひっ迫に関する情報発信時期・方法の見直し
従来、前日18時頃を目処に発令予定としていた需給ひっ迫警報については、前日16時頃を目処に発令へ変更。
また、警報発令の基準である広域予備率3%を上回る場合においても、需給ひっ迫の可能性を事前に幅広く周知する観点から、広域予備率が5%を下回る場合には、需給ひっ迫注意報を発令。
更に、電力需給ひっ迫の可能性を伝えるため、前々日の段階で注意喚起を促すこととし、 注意報の基準を参考に、エリア予備率5%を下回ると見込まれる場合に一般的な情報提供を実施。
更に政府は消費者向けに、電気の利用効率化に応じて、幅広く利用できるポイントを付与する制度の開始を検討しているほか、事業者に対しても、もう一段の節電をした場合に、電力会社が節電分を買い取る制度を導入し、実質的に電気代負担を軽減するとしています。
日本卸電力取引所(JEPX)での電力価格高騰の要因
電力価格の高騰は色々な要因が互いに影響し合って引き起こされます。特に直接的な原因となり得るものは、発電所トラブル等による急な供給力の減少や、予期せぬ気温の変化による急な需要の増加などが挙げられますが、その他にも発電する為に必要な燃料の需給とも密接に関係しています。
■LNGの需要増と価格高騰
2020年度の電力価格高騰の要因の一つに挙げられるのが、LNGの需要増とLNG価格の高騰です。
電力需要の増加が予想された際、各電力会社はその需要に応えるべく、火力発電に使われる燃料の一つであるLNGの在庫量を全国的に増やします。
その為、LNGの需要が増加し、例年春から夏にかけて低下する月別スポットLNG価格の平均値は、2021年は春以降も上昇を続けました。
■石炭・原油も価格高騰傾向
LNGだけでなく、石炭、原油も価格が高騰傾向にあります。<br>石炭価格は、主要な輸出国であるオーストラリア・インドネシア、輸入国である中国・インドの動向に大きく左右され、最近ではコロナからの経済回復による需要増加や中国でオーストラリアからの石炭の輸入制限などが掛けられていることも、市場価格に影響を与えています。
日本の石炭輸入価格(CIF価格)は、ここ10年で最も高い水準に上昇。アジア地域全体で石炭の需要が増加する一方で、世界的に供給力が伸び悩んでおり、需給がひっ迫している状況です。
原油価格においては、新型コロナワクチン接種の進展や、欧米を中心とする世界経済の回復によって上昇傾向にあり、2021年10月1日時点では、80ドル/バレル前後まで上昇しました。
■ウクライナ情勢の影響
ウクライナ情勢の緊迫化を受けて政府は、2022年4月に火力発電の原料とされる石炭のロシアからの段階的禁輸を決定しました。これにより燃料価格がさらに高騰し、電気料金への影響が懸念されています。
ロシアからの段階的禁輸の動きはヨーロッパでも広がっており、石炭価格の上昇はこれからも続く可能性があります。
個人・企業ができること
予期せぬ電力需給のひっ迫や電力価格の高騰に柔軟に対応するために、私たちはどのようなことができるのでしょうか。政府は需要家に対し以下のことを呼びかけるとしています。
・電力需給の安定化に向け、省エネキャンペーン期間において、国、地方公共団体、事業者及び国民が一体となった省エネへの取組
・特に産業界に対して、省エネの取組とともに、デマンドレスポンスへの積極的な対応、及び緊急時において政府からの要請に柔軟に対応すること
・電力需給の現状と見通しについて継続的に情報を取得し、需給ひっ迫時に円滑に節電等の呼びかけに対応できるような準備
関連コラム
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また、「2022年度の電力需給対策の基本的方向性案」では、具体的に次の対策が挙げられています 。
その中でも企業は、以下の2点の対策が考えられます。
1.供給対策
・ 電源募集(kW公募)の拡充による休止火力の稼働、災害等に備えた予備電源の確保
2.需要対策
・需給ひっ迫警報等の国からの節電要請の手法の高度化(多段階化、内容の具体化)
・産業界、自治体等における節電要請への対応体制の構築
実際に停電してしまった際の備えがあれば、非常時も事業活動が継続でき損害を防ぐことができます。
また、エアコンの節電やクールビズ、就業時間の見直しなどオフィスできる節電対策の情報も発信されているので、ぜひこういったすぐにできる対策も参考にしてみてください。
まとめ
2020年度から続く電力需給のひっ迫とJEPXでの高騰要因、節電要請や節電ポイント、企業がとるべき対策などについて解説しました。
2022年度夏季以降も引き続き厳しい状況が予想されています。電力需給のひっ迫、及び価格高騰の抑制という面はもちろんですが、再び同じ状況が起こったときに、すばやく安定供給ができるよう、さまざまな対策を進めていくことが求められます。
(出典)
2021年度冬季に向けた電力需給対策について|資源エネルギー庁
2021年初頭、電力供給が大ピンチに。どうやって乗り切った?(前編)|資源エネルギー庁
今冬の電力スポット市場価格高騰に係る検証について|資源エネルギー庁
燃料及び電力を取り巻く最近の動向について|資源エネルギー庁
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