インターナルカーボンプライシング(ICP)とは?仕組みや導入のポイント!

ビジネス関連
2022年6月27日

2050年カーボンニュートラル実現に向けて「インターナルカーボンプライシング(ICP)」の導入企業が増えています。インターナルカーボンプライシングとは何か、仕組みや導入のポイントをわかりやすく解説します。

目次

【目次】

インターナルカーボンプライシング(ICP)とは?わかりやすく解説

インターナルカーボンプライシング(ICP)の導入と活用ガイドラインとは

インターナルカーボンプライシング(ICP)の活用事例とは

※この記事は2022年6月27日に公開した記事ですが、文言やデータ、その他の部分も追記・更新して、2023年7月30日と2024年8月11日に再度公開しました。

インターナルカーボンプライシング(ICP)とは?わかりやすく解説

企業内部で設定するインターナルカーボンプライシング

インターナル・カーボンプライシング(以下ICP)とは、低炭素投資・対策推進を目的に、企業内部で独自に設定、使用する炭素価格のことです。
SBTやRE100などの気候変動関連目標においても、ICPを低炭素の投資指標として活用することを推奨しており、主に企業の計画策定において、省エネ推進へのインセンティブ、収益機会とリスクの特定、投資意思決定の指針等として活用されます。

スライド1.JPGICPは、企業の低炭素への活動やCO2削減への取り組みを、柔軟に変化させることが可能です。具体的には、最初に決定したICPの価格の上げ下げを後から変更できるため、脱炭素の動きが強まっているときは、価格を上げて気候変動経営を推進し、逆に脱炭素の動きが弱まってきたら、価格を下げて低炭素の取り組みを通常に戻すなど、柔軟に対応することで企業の意思決定リスクも回避できます。

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世界2位のインターナルカーボンプライシング導入企業数

世界のICP導入(予定)企業は、2018年以降増加傾向にあり、2020年時点で2000社を超えています。日本のICP導入企業数はアメリカに次ぐ第2位で、約250社が導入(予定)しており、今後も更なる導入の拡大が見込まれます。 

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インターナルカーボンプライシング導入のメリットとは

ICPの導入によって、組織内外に対して、以下のような効果が期待できます。

■組織内部への効果
・将来を見据えた長期的視野での低炭素投資・対策の意思決定が可能になる
・部門でのCO2削減貢献の見える化により、低炭素への取り組みレベルが全社で平準化される

■組織外部への効果
・経済的成果と気候変動対策を両立した事業運営を行っていることを対外的にアピールでき、企業価値の向上に繋がる

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インターナルカーボンプライシング(ICP)の導入と活用ガイドラインとは

環境省のインターナルカーボンプライシング活用ガイドライン

■導入の目的を定める

ICP導入に際しては、導入の目的=低炭素投資・対策促進の目的を定めることが重要です。
定めた目的によって、その後の価格設定や活用方法が異なるためです。
環境省が発表している「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン」によると、ICP導入の目的設定は、「取り組みの内的・外的要因」と「投資行動の緊急度」の2軸で整理されるとしています。

スライド4.JPG導入の目的を定めたら、「設定価格」→「活用方法」→「運用方法」の順で検討します。
詳しく見ていきましょう。

インターナルカーボンプライシングの価格設定

■STEP1:設定価格の検討

ICPの価格を設定するためには、以下3つの段階を踏むことがポイントです。
ICP価格の種類の理解
② 価格設定方法の検討
③ 社内の合意状況の確認

ICP価格は「Shadow price(シャドープライス)」と「Implicit carbon price(インプリシットプライス)」の2つに分類されます。
前者は、想定に基づき炭素価格を割り出すことで、後者は過去の実績等に基づき算定価格を設定することです。

シャドープライスの設定例には、炭素税、排出量取引に紐づく炭素価格などをはじめとする外部価格の活用が挙げられます。インプリシットプライスは、同業他社の設定価格をベンチマークにしたり、自社の低炭素投資を促す価格に向けた社内協議、CO2削減目標を数理的に分析した結果に基づいて設定します。「価格決定の難易度」と「温暖化対策の実効性」を鑑みつつ、自社が取り組みやすい価格設定方法を選択します。

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設定方法を検討したら、社内で環境対応に対してどの程度合意があるのかを確認し、その合意度を踏まえて価格を決定します。この際、「自社の取り組み意欲の程度」と「経済的な許容範囲の大きさ」を明確にすることが重要です。

社内の環境対応の合意度を把握するためには、下記3つの前提条件を元に整理します。

【前提条件】
① 社内で追加の低炭素投資の合意無し
② 将来の不確実性を踏まえた低炭素投資の合意
③ 目標達成度を優先する場合追加の環境投資に合意

価格設定の方法について、いくつかの例で比較してみましょう。

A:「現状の外部価格」と「自社の過去の低炭素投資」を基に価格設定する場合
前提条件①~③全てに該当する、自社に合った設定方法と言えます。
例えば現在の炭素価格のように、採算性を踏まえた省エネ・再エネ投資用のICP等です。

B:「将来の外部価格」を基に価格設定する場合
前提条件の②と③には該当するものの、①には該当しません。将来価格の不確実性により、炭素価格が上昇しない場合、損をするためです。

C:個社独自の価格設定をする場合
③のみに該当します。市場価格とは異なる独自の価格設定は、経済合理性で説明ができないためです。

よって、上記の中で最も自社に合っているのは、Aの価格設定方法と言えます。
しかしながら、そもそも将来の不確実性を踏まえた低炭素投資の理解が社内全体で出来ていないことや、自社の環境目標自体が無い等、②~③の前提条件を満たしていない企業もあると思います。
現状、追加の低炭素投資に合意していない企業が多いため、そのような企業については、まずは現状価格や過去の投資価格を基にICP価格を設定し、自社の環境目標を設定した後、目標に即した価格への変更をゴールとするケースもあります。

インターナルカーボンプライシングの活用方法の検討

ICPの設定価格が決まったら、活用方法について検討します。
活用方法の検討には、以下2つの段階を踏むことが重要です。

(1) 活用方法の種類を理解する
(2) 展開の方向性を定める

(1)「ICPの活用方法」は資金のやり取りの有無によって以下3つに分類されます。
① Shadow price(シャドープライス)
② Implicit carbon price(インプリシットプライス)
③ Internal fee(インターナルフィー:内部炭素課金)

① と②については、資金のやり取りが無く、気候変動リスクを見える化し、投資指標に
入れることで低炭素投資を推進します。

シャドープライスの活用例には、投資基準の参照値にすることが挙げられます。具体的には、CO2削減コストがICPを下回る場合、低炭素投資を実施します。
インプリシットプライスの活用例には、投資基準の引き下げがあります。投資額から、ICP×CO2削減量を減額し、低炭素投資を推進します。

➂のインターナルフィー(内部炭素課金)は資金のやり取りが発生します。排出量に応じて、社内で資金を実際に回収し、低炭素投資ファンド等へ活用することで、排出削減目標の達成やイノベーションの促進に寄与します。

スライド6.JPG(2)「展開の方向性を定める」には、「投資基準への反映」と「資金やり取りの有無」の2軸で整理します。
具体的には、ICPの用途を「参照用(投資基準以外・見える化)」と「投資基準への(一部)反映」で、低炭素資金を「部門で予算固定」と「社内の予算を融通・再配分(Internal fee)」するかで分け、どれに該当するかを見ます。

スライド7.JPG例えば、ICPを現状の経済活動を踏まえ、現状価格・過去の投資価格を“参照用”として導入する場合、「部門での予算固定」の方向性で進めます。
逆にICPがある程度社内に浸透した後、社内で予算を融通する場合は、「社内の予算を融通・再配分(Internal fee)」が方向性となります。

最後が活用方法の検討です。ここでは、担当部署がICP導入に必要な項目を整理し、関連部署と連携を図りながら、環境ビジョンの策定を進めます。
例えば、経理部では見える化のための投書や申請書の改定が必要な場合もありますし、事業部では、価格設定や適用範囲の検討を行います。経営企画部では、SBTやRE100等の低炭素へのコミットのための取り組みが必要な場合や、全社を通じて社内の低炭素投資の合意レベルを上げる必要もあります。

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インターナルカーボンプライシング(ICP)の活用事例とは

インターナルカーボンプライシング導入企業の事例は


ICP
を実際に導入している企業の例を自社の参考にするのも一つです。
ここでは、インターナルカーボンプライシング活用ガイドラインから国内の企業の事例を2つ紹介します。

事例1:アステラス製薬
国内大手の製薬会社であるアステラス製薬では、社内にICPの専門チームを設置し、価格設定ならびに低炭素投資を推進しています。
価格の種類は「インプリシットプライス」で自社全ての事業部門で適用しています。
また、価格は100,000(円/t-CO2)で設定し、アステラス製薬全体での共通単価となっています。

事例2:デンカ
有機・無機系素材事業、電子材料事業などを展開するデンカでは、社内の環境CO2価格の意識付け・向上を計るため、2008年からICPを導入しています。
ICPの種類は「シャドープライス」で、設定価格は2,200(円/t-CO2)です。
価格設定は、新規設備投資によるCO2排出量をもとに、欧州排出量取引制度の取引価格を参考にしており、設備投資時の参考データとして活用しています。

インターナルカーボンプライシング国内導入企業の価格一覧

国内のこのほかのインターナルカーボンプライシング導入企業の価格一覧については、環境省のインターナルカーボンプライシング活用ガイドラインや、ホームページなどで公開されています。

各社の設定価格はさまざまで、設定価格とともに、どのような事業にインターナルカーボンプライシングを適用しているのかも記載されていますので、参照してみてください。 

環境省 参考資料「インターナルカーボンプライシングの概要」 

今後も拡大するインターナルカーボンプライシング

いかがでしたでしょうか。
ICPの導入には、「設定価格」「活用方法」「運用方法」の3つのフローで検討すること、それぞれのステップでは、導入目的に沿った価格を検討し、社内での合意度を踏まえた現実的な展開の方向性を提示し、企業の実態に沿った推進を行うことがポイントです。
ICPの導入は今後ますます拡大することが予測されますので、興味のある方は是非詳しく調べてみてください。

(出典)
インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン~企業の低炭素投資の推進に向けて~|環境省
https://www.env.go.jp/press/ICP_guide_rev.pdf
インターナル・カーボンプライシングについて
https://www.env.go.jp/council/06earth/shiryou3.pdf

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