米国を中心に広がるグリーン・ニューディールとは
グリーン・ニューディール(GND)とは、米国で気候変動問題と経済格差の是正を目的に提唱された経済刺激策を指します。1929年の世界恐慌からアメリカ経済の救済を図るべく、当時の大統領だったフランクリン・D・ルーズベルトが行ったニューディール政策を、再生可能エネルギー、資源効率など今日の環境問題に対する取り組みを掛け合わせた政策です。
グリーン・ニューディールは、元々オバマ政権発足に先立って10年間で1,500億ドルの再生可能エネルギーへの投資や500万人のグリーン雇用の創出を掲げており、これを総称して「グリーン・ニューディール」と呼んでいました。しかし2019年2月に、当時史上最年少で当選したオカシオ=コルテス下院議員やエド=マーキー上院議員らによって新たなグリーン・ニューディール決議案が発表されました。
グリーン・ニューディール決議案では、
・温室効果ガス排出ゼロ
・電力の100%再生可能エネルギー化
・気候変動などによる災害への強靭性構築
・ゼロ・エミッション車や公共交通への投資・交通システムの抜本的な見直し
・強力な雇用・環境保護を伴う国境調整、調達基準、貿易ルールの採択及び執行
等が主な政策の柱となっており、気候変動対策に加えて国民の雇用やヘルスケアなど貧困層への対策も同時に行うことを重要視しています。
本決議案はその後の上院で否決されましたが、2021年4月にコルテス下院議員、マーキー上院議員によって再提出されました。 また、現在のバイデン政権が掲げる公約は、地球温暖化対策を重要視するものであり、実際にホワイトハウスに「気候変動国内対策室」や「ホワイトハウス環境正義諮問」の新設、関係閣僚からなる「国家気候タスクフォース」の設立など、気候変動問題に積極的に取り組む姿勢を見せており、今後の動向が注目されています。
グリーン・ニューディールと日本国内の動向
グリーン・ニューディールは先に述べた通り、経済政策と環境政策の複合的な効果を期待するものです。日本では未だ馴染みのない言葉ですが、日本は経済政策と環境政策について、どのような方針なのでしょうか。
前菅政権のもとでは、成長戦略の柱に「経済と環境の好循環」を掲げ、グリーン社会の実現に最大限注力するとしていました。また、2020年10月の所信表明演説にて、2050年カーボンニュートラルが宣言されたのは記憶に新しいかと思います。その所信表明演説にて、菅首相は更に次のように述べています。
「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です。」
この発想は、現岸田政権のもとでも引き継がれています。2022年4月に行われた「クリーンエネルギー戦略に関する有識者懇談会」において、岸田首相は、2050年カーボンニュートラルの実現には引き続きコミットしていくとしたうえで、過度の効率性重視による市場の失敗、持続可能性の欠如、裕福な国とそうでない国の環境格差など、資本主義の負の側面が凝縮しているのが気候変動問題であって、新しい資本主義の実現によって克服すべき最大の課題であると明言しました。
また、2050年カーボンニュートラルに向けては、官民が、炭素中立型の経済社会に向けた変革の全体像を共有し、この分野での投資を早急に少なくとも倍増するとし、単にエネルギー供給構造の変革だけでなく、産業構造、国民の暮らし、地域の在り方全般にわたる取り組みが必要であるとしました。
国立研究開発法人国立環境研究所が2022年4月に発表した日本の温室効果ガス排出量データ(1990年~2020年度)確報値によると、経済活動において最も温室効果ガスの直接排出量が多いのはエネルギー転換部門(40.4%)です。
一方で、日本の再エネ電力比率は18%(2019年度)と主要国の中では再エネの導入が遅れています。背景には、ASG(アジアスーパーグリッド)※等をはじめとする国際的な電力グリッドを持っていない為、日本国内で需給調整をする必要があることや、再エネの発電コストが国際水準と比較して高いことなどが挙げられます。
高コストな電源を使うということは、当然電気料金の価格高にも繋がるため、日本経済を後退させる一因にもなりかねます。
※ASG(アジアスーパーグリッド):アジア各地に豊富に存在する太陽光、風力、水力などの自然エネルギー資源を、各国が相互に活用できるようにするため、各国の送電網を結んでつくりだす国際的な送電網。
■主要国の発電電力量に占める再エネ比率の比較
(発電電力に占める割合)
2022年の1月には新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染が拡大し、2月以降はロシアのウクライナ侵攻など、経済が下振れする要因が重なりました。また、中国のゼロコロナ政策に伴うロックダウンやそれらを起因とする円安は、サプライチェーンを通じた企業活動、経済全体に様々な影響を及ぼしています。
日本では国を挙げて「グリーン・ニューディール」と銘打って政策を進めているわけではありませんが、岸田政権の掲げるカーボンニュートラルに向けたクリーンエネルギー投資や、エネルギー供給構造の変革、産業構造、国民の暮らし、地域の在り方全般にわたる取り組みは、こうした厳しい経済状況と気候変動問題に複合的に対応する事を目指しています。
脱炭素に関連する事業者や企業にとっては、今後追い風になる可能性があります。
国内の自治体で活用が進む「地域グリーン・ニューディール基金」とは
グリーン・ニューディールは日本全体では導入されていませんが、2009年度の第1次補正予算で「地域グリーン・ニューディール基金」が環境省によって創設され、一部の地方自治体では、既に活用が進んでいます。
地域グリーン・ニューディール基金とは、地球温暖化等の喫緊の環境問題を解決するために必要不可欠な地域の取り組みを支援し、当面の雇用創出と持続可能な地域経済社会の構築のための中長期的な事業を実施するため、都道府県及び政令指定都市に補助金を交付し、基金造成を促すものです。
対象となる事業は、各自治体の公共施設や民間事業者の施設、設備について、複数の省エネ技術を組み合わせて効果的に実施する省エネ改修事業や、アスベスト廃棄物の処理施設の整備、海岸漂着物の回収・処理や発生源対策等に係る事業等です。
徳島県では、この地域グリーン・ニューディール基金を活用して、過去に県が管理する国定公園や県立自然公園にLEDとソーラーパネル一体型の街路灯を設置したり、歩行者用信号機のLED化等を実施しました。
また、宮城県では東日本大震災を契機に、再エネ等の地域資源を活用した災害に強い自立・分散のエネルギーシステムの導入、環境先進地域づくりを目的としたグリーン・ニューディール基金を創設し、地域の防災拠点となる県、市町村庁舎、警察署、消防署、学校などの避難所といった公共施設等へ、再エネ設備や蓄電池の導入を進めています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
日本は、太陽光発電や電気自動車などの分野で世界に先行した技術をもつと言われています。
こうした分野で引き続き先進国となりつつ、政策との複合的な対応で投資や消費が促進されれば、脱炭素社会の実現と日本経済の発展に貢献できるのではないでしょうか。
グリーン・ニューディールについて興味のある方は是非詳しく調べてみてください。
(出典)
グリーン・ニューディールとは何か|国際環境経済研究所
https://ieei.or.jp/2019/02/special201608025/
https://www.congress.gov/bill/116th-congress/house-resolution/109/text
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN21F080R20C21A4000000/
今後の資源・燃料政策の課題と対応の方向性(案)|経済産業省
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/pdf/031_02_00.pdf
第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説|首相官邸
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1026shoshinhyomei.html
「クリーンエネルギー戦略」に関する有識者懇談会|首相官邸
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202201/18energy.html
https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.nies.go.jp%2Fgio%2Farchive%2Fghgdata%2Fjqjm10000017v04i-att%2FL5-7gas_2022_gioweb_ver1.1.xlsx&wdOrigin=BROWSELINK
日本のエネルギー2021|経済産業省
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2021.pdf
NEWS RELEASE|株式会社三菱総合研究所
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/ecooutlook/2022/dia6ou0000047d5m-att/nr20220519pec_all.pdf
地域グリーン・ニューディール基金及び中核市・特例市グリーン・ニューディール基金|環境省
https://www.env.go.jp/policy/local-gnd/index.html
徳島県グリーン・ニューディール基金事業について|徳島県
https://www.pref.tokushima.lg.jp/ippannokata/kurashi/shizen/5007198
再生可能エネルギー等導入補助金事業(平成23年度グリーン・ニューディール基金)について|宮城県
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/saisei/h23gnd.html
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