新時代の生産と消費:SDGsとも結びつくサーキュラーエコノミーとは?

ビジネス関連
2022年9月2日

世界的な人口増加に伴う資源・エネルギー・食料需要の増大、廃棄物量の増加、気候変動をはじめとする環境問題の深刻化等を受け、サーキュラーエコノミーへの中長期的な移行が重要視されています。サーキュラーエコノミーとは何か。移行の背景、メリット、移行に向けた課題などを分かりやすく解説します。

目次

【目次】

サーキュラーエコノミーとは

サーキュラーエコノミー移行の背景

①資源リスクの顕在化

②国際的な廃棄物処理システムの機能不全

③サステナブル・ファイナンスの活発化

サーキュラーエコノミー移行のメリット・課題

サーキュラーエコノミー移行に向けた企業の取り組み事例

まとめ

サーキュラーエコノミーとは


サーキュラーエコノミーとは、循環経済とも呼ばれ、「大量生産→大量消費→大量破棄」の一方通行の経済活動ではなく、製品と資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小化した経済を指します。従来日本が進めてきた3R(リデュース・リユース・リサイクル)との違いは、それらを単なる環境保護活動ではなく、付加価値を生み出す経済活動としても捉え、収益性を上げる事も目指します。

例えば、近年シェアリングやサブスクリプションなど、循環性と収益性を両立する新しいビジネスモデルが広がっていますが、サーキュラーエコノミーはこうした新しいビジネスモデルを踏まえ、3Rを持続可能な経済活動として捉え直した考え方とも言えます。

画像①.jpgしかしサーキュラーエコノミーへの取り組みは、短期的な企業収益・消費者便益には必ずしも直結しない場合もあります。その為、現時点で企業による動きは少ないものの、中長期的には事業活動の持続可能性を高めたり、他社との差別化、しいては競争力の強化にも繋がり得ることから、早い段階から「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」を意識しておくことが重要です。

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サーキュラーエコノミー移行の背景


サーキュラーエコノミー移行の背景には、大きく3つの理由があります。

① 資源リスクの顕在化
② 国際的な廃棄物処理システムの機能不全
③サステナブル・ファイナンスの活発化

それぞれについて見ていきましょう。

①資源リスクの顕在化
日本では少子高齢化に伴う人口減少が深刻な課題となっていますが、世界全体でみると人口増加は著しく、2050年には世界人口が97億人に達する見通しが立てられています。また2000年以降、新興国は急速に経済発展を遂げており、2013年には世界のGDPに占める新興国のシェアが初めて50%を上回りました。
これに伴い、国際的に資源・エネルギー・食料需要は増加し、資源価格の高騰、希少金属を含むクリティカルメタルの安定確保が将来的に困難になるとされており、資源リスクが顕在化しています。

001_02_00-pdf.png(出典:サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環分野の取組について|経済産業省・環境省 p.3)
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/ce_finance/pdf/001_02_00.pdf

② 国際的な廃棄物処理システムの機能不全
2つ目が国際的な廃棄物処理の機能不全です。
近年、特に中国をはじめとするアジアの国々を中心に、廃棄物の輸入を規制する動きが進んでいます。例えば輸入規制導入前の2017年の中国への日本からの廃プラスチック輸出量は、導入後の2018年の1年間で約40万トン減少しました。日本における廃プラスチックの輸出における中国が占める割合は71%から5%へと大きく減少しています。

こうした状況に伴い、従来輸出していた廃プラスチックや固体廃棄物が国内に滞留し、国内の廃棄物処理システムが逼迫する事象が世界各国で発生しています。

また、廃棄物を原料とするセメント産業も国内の生産規模は縮小傾向にあり、現行の循環システムを維持することは中長期的にみても困難であると言われています。今後、国内の資源循環システムや資源循環を支える産業の見直しが必要になるでしょう。

③ サステナブル・ファイナンスの活発化
3つ目が、ESG投資などをはじめとするサステナブル・ファイナンスの活発化です。
最近、SDGsが企業だけでなく個人でも当たり前に周知されているように、気候変動問題をはじめとする環境課題への対応要請が市場や社会全体で急速に高まっています。
企業がこのような社会的動向を踏まえて自社の行動を変容させる上で、投資家などの役割はとても重要であり、投資家が企業への投資を判断する基準となるサステナブル・ファイナンスは拡大しています。
例えば、2006年に国連によって提唱されたPRI(責任投資原則)は、投資家が企業の短期的な業績動向にとらわれず、中長期的な視点で企業に対して行動変容を促すことで、経済価値と社会的価値の両立を図ることを目的としており、2019年には新たにPRB(責任銀行原則)が策定されるなど、対象範囲を金融機関などにも広げています。

また、従来の財務情報だけではなく「環境」「社会」「ガバナンス」要素も考慮したESG投資が国内外で拡大しており、2020年度の世界のESG投資額は約3,900兆円というデータも出ています。

こうした状況下で、これまで環境分野に係る投資対象は気候変動分野が中心でしたが、一方でサーキュラーエコノミーの分野を対象としたインデックス・ファンド等も新たに出てきています。また、現在欧州委員会で検討が進められている「環境活動を分類・定義するタクソノミー」の6つの環境目的の一つにサーキュラーエコノミーが位置付けられるなど、サーキュラーエコノミーへの移行の必要性が国際的にも認識されつつあります。

もっと詳しく
SDGs(持続可能な開発目標)とは?需要が高まる理由、国内の取組についてご紹介します。
/column/corporation/20200831_12.html
ESG投資に関する国内の取り組みとSDGsとの関係
/column/corporation/20200831_11.html

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サーキュラーエコノミー移行のメリット・課題


サーキュラーエコノミーへの移行には、喫緊の課題である温室効果ガスの排出削減に寄与するのはもちろんですが、企業にとっては以下のようなメリットがあります。

① 新たな事業機会の創出
サーキュラーエコノミーへの移行は新たな事業機会が生まれる事を意味しています。企業は製品販売後の使用から廃棄にわたってユーザーと接点をもつ機会が増える為です。つまり、ユーザーに対して継続的なサービス提供や新サービスの開発などにも対応できる機会が得られるうえ、資源効率に役立つ情報の集約なども可能になり、それを活用した新たな事業が生まれる事が期待されています。

② ビジネスリスクの回避
資源の調達には、気候変動や廃棄物処理の環境制約、また政争や紛争などの地政学的なリスクが含まれています。また環境意識の高まりにより、サプライチェーン全体での環境対応が重要視されており、これらは今後事業にとって制約となるリスクです。サーキュラーエコノミーのように、製品ライフサイクル全体の長期間のビジネスを前提としたビジネスモデルのエコデザイン化は、資源の有効活用に資する事から、これらのリスクを低減できると期待されています。

一方でサーキュラーエコノミー実現に向けて解決すべき課題もあります。
例えば以下のようなものです。

① 製造・販売産業の変革
サーキュラーエコノミーの実現には、製品およびビジネスモデルのエコデザイン化が前重要ですが、新たなビジネスモデルへの転換は容易なことではありません。
例えば製品メーカーであっても、製品の製造だけでなく、サービス事業での製品の回収や交換のスキームを構築したり、使用履歴のデータの収集や、回収物の資源活用などまで考える必要があります。
製品のエコデザイン化でいえば、回収・再利用を前提とした製品をより長く使えるようにするための長寿命設計や、再利用に適した素材の選定など、既存の概念を取り払ったサーキュラーエコノミーでの製品付加価値が重要となります。これは事業収益などの捉え方を見直すことがどこまでできるかが重要ですが、簡単なことではありません。

② 解体・破砕・選別産業の変革
サーキュラーエコノミーの実現には、解体・破砕・選別などの静脈産業の役割が非常に重要です。なぜならば、今後資源活用できる部品や素材の処理には、基本的な解体・破砕・選別作業ではなく、処理プロセスの高度化によって、より高い処理品質で付加価値のあるリサイクル原料を生みだす必要があるからです。

しかしながら、こうした静脈産業は各地域に根付いた中小企業や事業者が大半であり、処理プロセスの標準化が進んでいないうえに、先に述べた製造・販売産業のようにデジタル技術の活用もあまり進んでいません。
今後はデジタル技術も活用しつつ、企業力の強化によって処理プロセスの高度化を図っていく必要があります。

③ 社会基盤の構築
サーキュラーエコノミーに適応したビジネスモデルへの転換には、先に述べた動脈産業と静脈産業それぞれの変革は必要なものの、これら2つをつなぐ社会基盤の構築もまた重要な課題です。例えば、製品をより長期的に使用するための「メーカー」と「ユーザー」の連携であったり、より高品質で資源循環させるための「メーカー」と「解体事業者」の連携など、個々が単独でシステムをつくるのではなく、バリューチェーン全体の各プレーヤーが連携してサーキュラーエコノミービジネスモデルのシステム全体を統合していくことが必要です。

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サーキュラーエコノミー移行に向けた企業の取り組み事例


実際にサーキュラーエコノミー実現に向けて企業はどんな取り組みをしているのでしょう
か。いくつかの事例をご紹介します。

事例①:自動車産業A社
A社では、従来副産物として処理されていたブランキング(銅板コイルなどを専用の機械で必要な長さに切りだす工程)の端材を加工しやすい形状に打ち抜き、外部協力メーカーに支給して小物部品の材料として利用するなど、環境配慮設計がなされています。

事例②:自動車産業B社
一次寿命が終了したタイヤのトレッドゴム(路面と接する部分のゴム)の表面を決められた寸度に削り、その上に新しいゴムを貼付け、加硫し再利用しています。

事例③:家電メーカーC社
家庭用・業務用機器などを提供するC社では、掃除機の部品に再生プラスチックを使用したり、金属部品の排除、部品の標準化に努め、環境配慮設計や昜解体設計を意識したモノづくりに取り組んでいます。

まとめ


いかがでしたでしょうか。
企業に求められる環境配慮などの社会的責任は近年その強度を増してきています。その背景の一つとして、大きく社会を転換させるためには、社会全体で共通認識を持って取り組む必要がある事が挙げられます。サーキュラーエコノミーへの移行も例にもれず、メーカーや卸売、小売業者だけでなく、消費者と協力して成り立たせる必要があります。本コンテンツが少しでもお役に立てば幸いです。

(出典)
サーキュラー・エコノミー及びプラスチック資源循環分野の取組について|経済産業省・環境省
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/ce_finance/pdf/001_02_00.pdf
サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス|環境省
https://www.meti.go.jp/press/2020/01/20210119001/20210119001-2.pdf
GLOBAL SUSTAINABLEINVESTMENT REVIEW 2020|GSIA
http://www.gsi-alliance.org/wp-content/uploads/2021/08/GSIR-20201.pdf
サーキュラーエコノミー変革のための社会基盤DX|知的資産創造/2020年12月号
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/chitekishisan/2020/12/cs20201202.pdf?la=ja-JP&hash=9215DE54912746197796F46D554770056F5103D2

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