【エネルギー白書2022】エネルギーを巡る不確実性にはどう対応する?

ビジネス関連
2022年9月2日

未曽有の寒波や熱波などの気候変動、新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵略など、予期せぬ災害や社会情勢の影響でエネルギーの不確実性はますます高まっています。日本や世界はどのように対応していくのでしょうか?ここでは、経済産業省 資源エネルギー庁によって2022年6月に発表された「エネルギー白書2022」の中からエネルギーを巡る不確実性への対応についてまとめます。

目次

【目次】

新型コロナが与えたエネルギー需給への影響

■低圧(家庭や商店)の動向

■ 高圧(産業、業務他部門)

世界的なエネルギー価格の高騰とロシアのウクライナ侵略

エネルギー価格高騰に対する各国の政策対応

世界的なエネルギー価格の高騰が日本に与える影響

まとめ

本コンテンツは、2022年6月に資源エネルギー庁が発表した「令和3年度エネルギーに関する年次報告 (エネルギー白書2022)PDF版」を基に作成しています。詳しくは以下をご覧ください。

令和3年度エネルギーに関する年次報告 (エネルギー白書2022)PDF版|資源エネルギー庁

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新型コロナウイルスが与えたエネルギー需給への影響


新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は2020年1月に日本で初めての感染者が報告され、世界経済や私たちの従来の常識、ライフスタイルを大きく覆しました。
特に、エネルギー需給に与えた影響は顕著で、世界的な行動制限や渡航制限に伴い、ガソリンや航空燃料などの需要は急激に落ち込み、産油国間の協調減産の決裂などによって、2020年のエネルギー需要は2019年に比べ4%下落しました。
2020年後半以降は、ワクチンの拡大や世界各国の政府による経済刺激策などによってエネルギー需給は一旦回復したものの、天然ガスや石炭等の価格は過去最高水準に達し、依然としてエネルギー分野に混乱を生じさせています。

ここでは、新型コロナが日本のエネルギー動向に与えた影響について、特に電気への影響に焦点を当てて見ていきます。

■低圧(家庭や商店)の動向
低圧とは、主に一般家庭や小型の商店向けに供給される電圧を指します。
2020年4月の緊急事態宣言期間外及び宣言期間中と、2019年・2021年の同時期の電力需要を比較すると、住宅、商業エリアともに2019年よりも2020年・2021年の需要が増加しています。これは、緊急事態宣言中の外出自粛によって、自宅での電力消費が増えたことが影響していると考えられます。

住宅エリアでは外出自粛が影響し、主に朝6時から夜21時頃にかけて電力需要が増加しています。その一方で、商業エリアは住宅エリアと対象的に、夜間の電力需要が減少し、客足の減少や店舗自体の営業時間短縮の動きが影響していると考えられます。

■高圧(産業・業務他部門)の動向
高圧とは、6,000ボルトで供給される送電電圧規格の一つで、主に工場や商業施設などで使用されています。
高圧の住宅エリアでは、緊急事態宣言中、昼間から夜間にかけての電力需要が落ちている傾向が見られました。これは、飲食店などの営業自粛、時短営業の影響と考えられます。
2021年の電力需要は、2019年と2020年の中間値を推移しており、人々や経済の抑制が回復していることが考えられますが、地域によって差があるようです。

商業エリアを見てみると、昼間から夜間にかけての電力需要が減少しており、これは、テレワークの浸透によってオフィスを活用することが少なくなったことや、飲食店の時短営業や営業自粛の影響が考えられています。

工業エリアでも、昼間から夜間にかけての電力需要が減少傾向にあり、工場等の生産活動の影響が出ていると考えられます。
2021年は、電力消費量が減少した2020年とほぼ同水準で推移しており、経済活動の落ち込みが継続している可能性が考えられます。

多くの分野では、コロナ前の水準に戻りつつありますが、2021年時点で全てのエネルギー分野が回復している状況とは言えません。
テレワークやオンライン授業などが浸透し、社会構造自体が変化している可能性もあることから、エネルギー分野における新型コロナの影響が一時的なものなのかどうかは、今後も継続的に分析していく必要があります。

エネルギーの不確実性はますます高まっており。省エネの更なる強化やエネルギー需給構造の強靭化が今後の課題となっています。日本では、「安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合理化等に関する法律等の一部を改正する法律案」や「クリーンエネルギー戦略」に基づく施策など様々な政策を通じてこうした課題に対応するとしており、官民が一体となった取り組みが重要視されています。

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世界的なエネルギー価格の高騰とロシアのウクライナ侵略


2021年は新型コロナからの経済回復に伴い、エネルギー需要が拡大した一方で、災害や化石資源への投資不足、天候不順など複合的な要因によりエネルギーの供給が拡大しなかったことでエネルギー需給がひっ迫し、歴史的なエネルギー価格の高騰が生じました。
2022年になると、2月のロシアのウクライナ侵略によって、世界のエネルギー情勢は混迷し、2021年より続くエネルギー価格の上昇は一過性にとどまらない可能性もあります。
エネルギー価格高騰の背景には、主に以下の5つの要因が挙げられます。
① 上流投資不足
② エネルギー消費量の回復
③ 電力供給構造の変化
④ 各国の電力需給ひっ迫
⑤ アメリカの天然ガス貯蔵量減少

① 上流投資不足
世界の化石資源開発への投資は、資源価格の下落を受けて2015年頃から減少し、近年は脱炭素への潮流を受けて停滞しています。
パリ協定合意前と後の投資額をみてみると、合意前の2014年は8,000憶ドル近くあった投資額は2021年にほぼ半減し、4,000憶ドルに届かない見通しです。

② エネルギー消費量の回復
新型コロナの拡大による世界的な経済活動の縮小により、世界の一次エネルギー消費量は第二次世界大戦後最大となる4.5%減少しました。減少分の大半は石油が占めており、天然ガスは前年比2.3%減にとどまったものの、結果的に一次エネルギーに占める天然ガスの割合が25%上昇し、エネルギー供給における天然ガスへの依存度が高まりました。

③ 電力供給構造の変化
電力の需要は、2020年には2019年比で0.5%減にとどまりました。減少分の過半は出力調整が可能な石炭火力だった一方で、出力調整ができない太陽光、風力等の再エネ電源は、逆に発電量を増やしました。この結果、世界の電力供給に占める再エネ電源比率は29%に上昇し、エネルギー供給における再エネ電源への依存度が高まりました。

④ 各国の電力需給ひっ迫
2021年1月、日本では記録的な寒波によって電力需要が増加したことで、燃料不足、需給ひっ迫によりLNGと卸電力前日のスポット価格が高騰しました。
2月には、アメリカで寒波により多くのガス供給設備が停止し、大規模な計画停電が実施されました。その後も、夏にはアメリカ西部地域全体で猛暑による節電要請が度々出され、ルイジアナ州ではハリケーンによる大規模停電が起き、欧州ではギリシャ、トルコで熱波による節電要請や停電が発生し、南半球のニュージーランドでは寒波による計画停電が実施されるなど、各国で電力需給がひっ迫する事態が発生しています。
電力需給がひっ迫することで、エネルギー源である石炭や天然ガスの価格が高騰し、小売会社の撤退や電気料金の急激な上昇に繋がっています。

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⑤ 欧州の天然ガス貯蔵量減少
欧州には、仮に天然ガス・LNGの生産・供給が完全に停止した場合、冬期でも2か月程度は耐えられる在庫を確保するために、枯渇ガス田を活用した地下ガス貯蔵施設が各国に設置されています。2021年は、この在庫が例年と比較して2割程度低い状態となりました。
原因としては、2021年後半にロシアが欧州向けの天然ガス供給を絞ったこと、2022年以降は、ロシアのウクライナ侵略により、天然ガスの供給が世界的に絞られたことなどが挙げられます。

ロシアのウクライナ侵略を要因とするエネルギー価格高騰の背景には、原油・天然ガス・石炭のロシアへの依存度が高いことが挙げられます。
例えばドイツは天然ガスの4割以上を、オランダは原油のほぼ全量をロシアに依存しているほか、原油・石炭もロシアが輸入シェアトップになっています。
欧州各国が自国で一次エネルギーを賄うことができないうえに、特に天然ガスについてはロシアからの輸入に頼っていることが、ロシアへの依存度を高めていると考えられます。

▼G7各国の一次エネルギー自給率とロシアへの依存度

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エネルギー価格高騰に対する各国の政策対応


エネルギー価格高騰を受けた各国の対応は、短期的には
① 需要家保護
② 小売事業者保護
の大きく2つに分かれますが、例えば小売り料金上限の引上げ/引下げのように、片方にとって便益となる内容が、もう片方にとって損失となる場合もあるため、①のうち特に困窮する需要家の保護を優先しつつ、国の資金も活用しながら小売事業者保護を両立させるケースが多く見られます。

中長期的な対応としては、③エネルギーセキュリティの向上が主な方針となっており、原子力や石炭などの化石燃料に対する評価が見直される傾向にあります。
ここでは、①②③のイギリス、ドイツ、フランスの対応について見ていきます。

■イギリス
イギリスは、①の需要家保護として、困窮世帯救済に従来から実施している電気・ガス料金の割引等に加え、5億ポンド(約815億円)の基金を用いた支援を実施しています。
また、Ofgemという規制当局が、小売事業者が破産した場合でも、代わりの電力・ガス小売事業者を指定するなどして、需要家が安定して電気・ガスを供給できるようにしたり、小売事業者の監視を強めたりしています。

➁については、小売電気・ガス料金上限の引上げを行い、燃料高騰の影響を価格転嫁できる措置を講じることで、小売事業者保護を行っています。

➂については、原子力の資金調達を支援する枠組として、RABモデルという規制資産ベースモデルを検討しています。RABモデルとは、建設と操業に係るリスクを消費者と分け合うことで、資金調達のハードルを下げるものです。

■ドイツ
ドイツは、①への取組として再エネ賦課金の減額や、低所得者世帯に対して一度きりの補助金支給を行っています。
また、③については2030年に終了するとしていた石炭火力を2030年以降も継続することで、ロシア産エネルギーへの依存を低減することを検討しています。

■フランス
フランスは①への取組として、電気料金に係る税の引き下げによって規制料金引き上げを抑制しています。
➁への取組としては、新規小売電気事業者に対して原子力発電の電力量の一部を比較的安価な価格で販売する既存の制度を修正して、電力販売量を増加させる措置を一時的に取っています。

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世界的なエネルギー価格の高騰が日本に与える影響


世界的なエネルギー価格の高騰に対する各国の対応についてご紹介しましたが、日本も大きな影響を受けています。
日本の企業物価は2021年2月に前年同月比9.3%増を記録しましたが、これは、第二次石油危機以来の歴史的な上昇率です。また、輸入物価(円ベース)も同34.0%増と、リーマンショック直前の2008年8月以来の高い水準を記録しました。
しかし一方で、消費者物価は石油危機当時と異なりほぼ横ばいで推移しており、国際市場上昇の消費者物価への影響は限られています。

企業物価の内訳を分野別で見てみると、木材・木製品が2015年比で6割上昇したほか、鉄鋼、非鉄金属、石油・石炭製品で同じく4割上昇する一方で、輸送用機器や生産用機器などはほぼ横ばいで推移しました。
これらから考えられることは、鉄鋼・非鉄金属、石油・石炭製品といったエネルギー多消費産業は、エネルギー価格上昇の影響を大きく受けた一方で、素材産業、加工組立産業は、消費者に届くまでの過程で価格上昇がサプライチェーンの各段階で転嫁できず、吸収されたと推測されます。

ロシアのウクライナ侵略は依然として終息の兆しが見えません。長引くことによってエネルギー価格が高止まりしたり、脱炭素に向けた取組を進めるための新規投資等を拡大させていくことで、価格・量の両面からエネルギーコストが上昇していくことが予測されます。
とはいえ、全ての業種で販売価格を適時上げていくことは容易なことではありません。日本経済全体として、エネルギーの輸入価格を抑える努力をしつつも、省エネ等でエネルギー生産性を向上させることが重要です。

まとめ


いかがでしたでしょうか。
新型コロナのエネルギー需給に対する影響やロシアのウクライナ侵略によるエネルギー価格高騰など予期せぬ災害や社会情勢がどのように企業や人々の活動に影響するのかについてご紹介しました。他にも私たちの活動や生活に影響を与える要因は多く存在します。
常に変化する環境に対応し、対策を講じ影響を最小限に抑えるためにも、日々の情報収集は重要です。この記事が少しでもお役に立てば幸いです。

(出典)
令和3年度エネルギーに関する年次報告 (エネルギー白書2022)PDF版|資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/pdf/1_3.pdf

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